旬をたのしむ
ひと口頬張るごとにしあわせな気持ちを運んでくれるスイーツ。古くからホリデーシーズンには、特別なスイーツたちが親しまれてきました。世界には多彩な“ホリデースイーツ”がありますが、それぞれに共通するのは分かち合うこと。そして、共に食べる人たちの幸福を願う気持ちです。
ホリデースイーツは、なぜこのように親しまれるのでしょうか。それには、キリスト教の節目である「クリスマス」と「エピファニー」が関わっています。
「クリスマス」と「エピファニー」のいわれ
そもそも12月25日の「クリスマス」は、イエス・キリストの降誕祭です。降誕祭とは「キリストの誕生日」ではなく「キリストが生まれてきたことをお祝いする日」を指します。そして、1月6日の「エピファニー」は公現祭。これは「キリストが公に現れてお祝いされた日」で、ホリデーシーズンは、1月6日でクライマックスを迎えます。
この節目に合わせて、ホリデースイーツは大きく2種類に分かれます。一つが、クリスマスまでのアドヴェント期間(約4週間)に毎日少しずつたのしむもの。もう一つが、エピファニーをお祝いするものです。つまり、クリスマスを待ちわびるスイーツと、祝宴の締めくくりです。
2つのホリデースイーツ
中でも、世界で親しまれているものといえば「シュトーレン」と「ガレット・デ・ロワ」です。
シュトーレン
シュトーレンは、ドイツ発祥のパン菓子で、アドヴェント期間に食べるホリデースイーツです。ドライフルーツやナッツがぎっしりと練り込まれた小麦粉の生地をオーブンで焼き上げ、すましバターに浸し、表面をたっぷりの砂糖で雪化粧。諸説ありますが、おくるみに包まれた幼子のイエス・キリストを模したといわれています。
毎日、少しずつスライスして、ちょっとずつちょっとずつ食べていきます。日が経つごとに味がなじみ、味わいが変わっていく過程もたのしく「クリスマスが今年もやってくる」というワクワクも感じられたりして。
今では様々なバリエーションがあり、カットして友人などにおすそ分けしたり、ウィンターギフトにしたりと、たのしみ方も時代と共に変化。しかしもとを辿れば、家族と日々一本のシュトーレンを食べる中で、おいしさと一緒にクリスマスを待ちわびる気持ちも分かち合い、ともに準備を整えていく。シュトーレンは、そんな存在だったといえるでしょう。
- Tips|シュトーレンの食べ方
- 1cm程度にスライスして、少しずつ食べます。まず、シュトーレンを中央から半分に切り、そこから外側に向かってスライスしていきます。その日に食べる分を取り分けたら、2つのシュトーレンの切り口をぴたりと合わせ、ラップなどでしっかり巻いて保存します。さらに、アルミホイルで包めば、なおよいでしょう。
たっぷりのナッツやドライフルーツが入っているためホロホロと崩れやすいので、ナイフを少しずつ前後にスライドさせて切ると、きれいにカットできます。
ガレット・デ・ロワ
家族や友人が集う新年に欠かせないガレット・デ・ロワ。発祥の地であるフランスでは、年が明けるとパティスリーやベーカリーの店頭はガレット・デ・ロワで埋め尽くされます。そもそもはエピファニーを祝うお菓子ですが、現在では、1月いっぱいたのしまれているようです。
ちなみに「フェーヴ」は「そら豆」という意味。そら豆は、胎児のような形をしていると、古くから命のシンボルとして扱われてきました。また、結婚や農耕にまつわる祭事では、そら豆がふるまわれた歴史もあります。このことから、最初はそら豆や金貨を入れていましたが、19世紀に入り工業化が進み、陶磁器が流行した頃から陶器の人形を入れるようになりました。諸説ありますが、初めてガレットへ人形を入れたのは1847年のパリ。ドイツの『マイセン』に注文したものだったそうです。
新年の華やかな場を盛り上げるガレット・デ・ロワ。シュトーレンと同じく、一つのおいしさを共にたのしむことで、気持ちを一つに。そして、集う人たちの一年の幸福を、みんなで願うホリデースイーツです。
- Tips|ガレット・デ・ロワの切り分け方
- 本場では、その場の人数分に切り分け、テーブルの下に隠れていた最年少の子どもが誰にどの一切れを与えるのかを決めることが多いようです。カットする人は、ナイフがフェーヴに当たらないよう、ふきんを被せてカットするか、みんなの見えないところでカットしてからお皿に盛る場合も。
行く年くる年を彩るホリデースイーツ。これらには、身近で大切な人たちと囲むしあわせと、その幸福を願う気持ちが込められています。