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seasonal旬をたのしむ

果実のリズムに合わせた一粒

2022.05.17
果実のリズムに合わせた一粒

もとを辿ると、梅は中国原産の花木で、日本にも花を愛でるために伝わりました。その一方で、古代から実などに様々な効能があるともされ、平安時代中期には梅干しの元祖ともいえる塩漬けが書物に登場しています。

村上天皇が疫病にかかった際に梅干しと昆布を入れたお茶を飲んで回復したという記録もあり、これが元旦に飲む縁起物「大福茶(おぶくちゃ)」の起源なのだとか。また、この年が申年であったことから、今でも60年に一度しか収穫できない申年の梅でつくる梅干しは、希少な縁起ものです。

鎌倉時代には、僧侶の酒の肴として親しまれ、やがて武士の縁起ものや兵糧飯に。庶民の食卓にのぼるようになったのは、江戸時代です。

春の訪れを告げる梅の花
(写真提供:不動農園)

歴史も古く、今や全国各地の家庭で親しまれている梅干し。様々な産地やつくり手を巡るDEAN & DELUCAのバイヤーに、おいしい梅干しについて聞きました。

「産地にはこだわらず、常によい出会いを求めていますが、おいしい梅干しを探していると和歌山の南高梅に魅かれることが多いですね。南高梅の存在感のある佇まいや、薄い皮、柔らかくてジューシーな果肉がとろける香りと共に広がるところに、なんともいえぬ魅力があると思っています。そこには恵まれた土地や技術を守っているつくり手さんの想いもまた、大きく影響しているということが伝わってきます(バイヤー・吉住)」

中でも田辺市にある『不動農園』の梅干しは、格別なのだとか。そこで『不動農園』の不動麻衣子さんに、その味わいに込めた想いやこだわりを伺います。

懐かしくて、あたらしい まるでフルーツのような梅干し

清らかな自然に囲まれた場所にある農園
清らかな自然に囲まれた場所にある農園

自社農園で育てる梅の加工・販売までを一貫して行う『不動農園』は、代々この地で南高梅を育てるつくり手です。「自分たちが育てた梅で、安心して食べていただけるおいしさを」と、40年ほど前から梅干しづくりを始めました。

そのラインナップはバラエティ豊か。シンプルに塩で漬ける古きよき梅干しはもちろん、二次加工と呼ばれる味付けで、蜂蜜やカツオなどを加えて仕上げた食べやすい商品まで。子どもや若い世代など、梅干しになじみのない人たちにももっと親しんでもらいたいと、チャレンジをしています。

そんな『不動農園』の梅干しのおいしさを紐解くと、大きく2つの理由がありました。

「梅干しづくりで一番大切にしているのは、実そのものです。『不動農園』で使う梅は、皮がギリギリまで薄くて、果肉が厚い。これには理由があります。

まず一つめの理由が、うちの農園は、海から10kmほど奥地の上芳養地区にあります。ここは、この辺りでもとくに梅づくりに適した土地のようです。もう少し海辺側に近づくと皮の厚い実が増えたり、反対に山間部に行けば種が大きくなりますね」

安心安全な実を育てるためにも、畑の土づくりも大切に。地域の鶏舎から分けてもらう鶏糞などの有機肥料を使い、化学肥料は一切使用しません。また、冬場に梅の木の日当たりをよくするため剪定した枝も、粉にして畑の肥料に使っています。


「もう一つの理由が、収穫のタイミング。木からポトッと自然に落ちるまで熟すのを待ちます。木からもいだりすれば自分たちの都合で作業できますが、梅の自然なペースに合わせると、皮が薄くて果肉が厚い実になるんです」

収穫が始まるのは、毎年6月のはじめごろから。最盛期は同じ月の20日ごろです。

落ちた実が太陽にあたると焼けて台なしになるので、収穫の時期は、太陽がのぼる前から作業が始まります。また、実が直接土に触れないよう、畑にはネットを張っています。その上を、這いつくばって収穫するので足腰に負担のかかる重労働ですが、おいしさには変えられません。

「収穫した実はすぐに工場へ運んで、水洗いをして選果(せんか)します。その後、サイズごとに分けて、20%の塩で3トンのタンクへ漬け込み、20日ぐらい漬けたらセイロに上げて、夏の天日干しにより梅干に仕上げて10㎏の樽へ詰める一次加工をします。最初は舌にびりっとくるしょっぱさですが、2ヶ月もすると樽の底にとろ〜りとした飴が溜まって、まろやかになっていくんですよ」


毎日食べたい梅料理

梅干しの冷やしうどん

■梅干しの冷やしうどん
醬油の風味を引き出しただしに、梅干しの酸味、とろろ昆布の旨み、爽やかな大根おろし、 サッと茹で上げた夏野菜がよく合います。
「ここではうどんを使っていますが、素麺やひやむぎなど、冷やしておいしい麺類でアレンジがききます。一緒にのせる夏野菜も、キュウリやトマトなど、お好みのもので試してみてください(DEAN & DELUCAバイヤー・吉住)」

■梅干し炊き込みごはん
収穫時期など、繁忙期のランチはパッと食べられるおむすびが欠かせないという『不動農園』の皆さん。そのごはんに梅干しを入れることで、汗をたくさんかく時期の塩分補給になり、腐食予防にも一役買ってくれるのだとか。
「炊飯器や土鍋に、白米を炊飯する量で米、水を用意します。そこに、梅干し丸ごと1個、雑魚、あれば貝柱を加えて炊飯するだけです。忙しい朝にも炊くだけでおいしい炊き込みごはんの出来上がり。ほのかな梅の風味がおいしいですよ(『不動農園』不動さん)」

■オイルを使った料理と一緒に
パスタ料理のアクセントを始め、餃子や唐揚げに添えるなど、梅干しの果肉はオイルを使った料理によく合います。果肉を刻んだり叩いたりして、自由に加えてみましょう。
「さっぱりとした風味で、食が進みます。餃子ならタレや醤油と混ぜて、唐揚げならお好みのソースに加えればアクセントになります(『不動農園』不動さん)」


不動農園
不動農園|FUDO-NOUEN
紹和歌山県田辺市で、1983年から加工品もつくり始める。梅の栽培はもちろん、収穫から加工まで、一貫して地元の清らかな自然を大切に。機械化はせず、全て人の手でつくり続ける。
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