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家族の幸福を願うハレの料理

2021.11.01
家族の幸福を願うハレの料理

11月のカレンダーをめくると、世界ではホリデーシーズンの始まり。アドヴェント期間に様々な準備をしながら、クリスマスを心待ちにします。

日本でも、年末年始に向けてお餅をついたり掃除をしたりと、少しずつ準備する方もいるでしょう。そんなお正月支度の一つとして、古くからつくられてきたのが、近しい人と囲む「おせち」。重箱に詰められた一つひとつの料理や食材に、おめでたい意味やいわれがある伝統料理です。

近頃では、バラエティー豊かなおせちを購入するなどしてたのしむ方も増えましたが、ここではそのルーツに注目。本来の意味を知って食べると、きっと、新たな目線でたのしめるはずです。

「おせち」の始まり

ルーツは、奈良時代にさかのぼります。朝廷の宮中行事での宴料理が、その始まりなのだとか。

この宴料理を食べる機会に、宮中で行われた宴会がありました。それは、暦の上では節目となる「節日(せちにち)」に、宮中で行われた「節会(せちえ)」。節会が特に盛んに催されたのは、平安時代だそうです。

平安時代の節会には、1月1日「元日」、1月7日「白馬(あおうま)」、1月16日「踏歌(とうか)」、5月5日「端午(たんご)」、11月「豊明(とよのあかり)」の5つがありました。これらを総称して「五節会」と呼び、特に重要な日のごちそうに振る舞われた料理が「御節供(おせちく)」。これが略されて「御節(おせち)」という名前の由来になったといわれています。


「重箱」の意味と詰め方

現代のおせちは、一般的に重箱に詰められています。この重箱に詰めるようになったのは、江戸時代の後期〜明治時代頃からだそう。

そもそも、おせちは各家庭の1年を守る「年神さま(としがみさま)」※1 をもてなすお供え料理です。この年迎えの膳が「おせち」と呼ばれていました。つまり、お供えもののお裾分けをいただいていたというわけです。


重箱の段数や詰め方には、家庭や地域ごとに特色があります。

段数では、2段重ねや3段重ねがよく見られますが、正式には4段重ねといわれます。それぞれ「壱の重」「弐の重」「参の重」「与の重」と表し、4段目は「四の重」とは書きません。なぜなら、数字の4は「し」とも読み「死」を連想させることから、不吉として使われていなかったそう。また、4段重ねが基本ですが、五の重もあります。これは、神さまからの福を詰める控えの場所として、空っぽにしておきましょう。

詰め方にも習わしがあり、それぞれの段によって詰める料理があります。

三段重の場合
一の重・・・祝い肴(黒豆、かずのこ、田つくり、たたきごぼう)、口取り肴※2(紅白かまぼこ、きんとん、伊達巻き、昆布巻き、ちょろぎなど)
二の重・・・焼き物、酢の物
三の重・・・煮物

四段重の場合
一の重・・・祝い肴
二の重・・・酢の物、口取り肴
三の重・・・焼き物
与の重・・・煮物

こちらも地域や家庭により特色がありますが、共通するのは壱の重の顔ぶれ。五穀豊穣、不老長寿、子孫繁栄などを願った、伝統的な縁起物の祝い肴が盛り込まれています。

※1:年神さま
お正月になるとそれぞれの家庭にやってきて、その家のその年1年を守り統べる神さま。「年」という言葉の語源は「登志(トシ)」。古くは穀物のことを指す言葉で、1年を守護する年神さまは、農耕の神さまでもある。このことから、米を始めとする穀物の収穫のサイクルを「年」と呼ぶようになった。
※2:口取り肴
おせちや会席料理などのおもてなし料理で、最初に出すもの。海の幸と山の幸を使用した甘みのある料理を一枚の皿に盛り合わせ、お吸い物と共に出す、いわゆる「酒の肴」。口取り肴は最初に食べる料理なので、重箱の一番上の「壱の重」に、縁起がいいとされる奇数(5品、7品、9品)の料理が詰められる。

黒豆
黒豆
「豆(マメ)に働けるように」という語呂合わせから、健康や長寿、無病息災を願って食べられます。諸説ありますが、黒豆を甘く煮る料理は、江戸時代に栄えた料亭『八百善(やおぜん)』が始めたそう。関西では「しわが寄らないように(年をとらないように)」と、ふっくらと。関東では「しわだらけになるまで長生きできるように」と、しわが入るように煮ます。
かずのこ
かずのこ
ニシンの卵巣であるかずのこ。「二親(にしん)」と漢字を当て「二人の親からたくさんの子どもが生まれる」とされ、子孫繁栄の縁起を担ぎます。おいしいかずのこを選ぶなら、塩抜きされていない薄皮が付いているものや、本来の黄色のものがおすすめです。
田つくり
田つくり
カタクチイワシの幼魚を炒って甘辛く煮詰めた、五穀豊穣の象徴。かつてイワシを田の肥料にしたところ、五万俵ものお米が収穫できたことから「田つくり」と呼ばれるように。「ごまめ」とも言い「五万米」と当て字します。また、たくさんの幼魚を使用することから「子孫繁栄」の縁起も担いでいます。
たたきごぼう
たたきごぼう
ごぼうを叩いて開くことから「開運」の意味が込められています。また、ごぼうは地中に根を張り力強く成長する様から「延命長寿」の象徴とも考えられ、さらに根付く姿に重ねて「家族が土地に根付き、安泰に暮らせますように」という願いも。
口取り肴
酒の肴でもある「口取り肴」。以下の料理の他にも「よろこぶ(昆布)」「養老昆布」といった語呂合わせで、縁起を担いだり「不老長寿」を願う「昆布巻き」。「財宝」や「豪華」といった意味を込めた「金糸たまご」などがあります。

おせちは、もとは神さまへのお供え物ですが、時代の移り変わりと共に、新年の挨拶にくるお客さまへのおもてなしの役割ももつようになりました。そういった背景もあり、華やかでお酒に合う縁起物の料理が広まっていったのです。

紅白かまぼこ
紅白かまぼこ
そもそもかまぼこは、生魚より保存が効くため重宝されてきました。紅白の“紅”は「めでたさ」や「魔除け」。“白”には「神聖さ」や「清浄」の意味が込められているそうです。また、半月円の形から「初日の出」もイメージされ、新しい年の始まりにぴったりな酒の肴です。
きんとん
きんとん
「金団」と書き「金色の団子(毛布)」という意味を持ちます。その見た目から、金塊や小判などが連想され、時代と共に「金運上昇」を願うように。また「勝ち栗」という言葉があるように、武家社会では戦の幸先によいとして、栗を一年の始まりに食べて「勝負強い一年に」と縁起を担いだともされています。
伊達巻
伊達巻
長崎で、中国と西洋の料理が日本人好みにアレンジされた「卓袱(しっぽく)料理」の「カステラかまぼこ」がルーツ。江戸時代に「伊達者」と呼ばれたおしゃれな若者たちの着物の柄から名付けられたそうです。巻物のような形が書物を連想させ、知性の象徴として「学業成就」の願いが込められています。

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