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あらゆるところに灯る光 『大岡弘晃氏』

2024.11.02
あらゆるところに灯る光 『大岡弘晃氏』

トレードマークのビックスマイルと優しい声。
大きな掌にはいつもたくさんの絵の具の跡。
長身の身体でいつも大きなキャンバスを抱えて歩き、ギャラリーでは沢山の人たちの笑顔に囲まれている人。

大岡弘晃さんは、宮崎県出身のアーティストです。

キャンバスいっぱいに踊るようにうねる様々な色のドット。
光のエネルギーを束ねたような金彩が印象的なドローイング。大岡さんの生みだす作品は、国内外を含め幅広い世代の人たちに愛され、一月に一度のハイペースで展覧会が開催されています。

Interview

アーティスト『大岡弘晃(おおおかひろあき)』

大岡弘晃さん

神話のうまれた場所で

大岡弘晃さんのアート作品は、ドローイングが多くを占めています。描かれた作品は、モダンアートの領域に属するものですが、どこか懐かしいような既視感を覚えるような人も多くいます。

夢見るような色彩のドローイングは、どのようにして描かれるのでしょうか?

日本最古の書物であり、歴史書でもある古事記。
その中に、創生神イザナギが黄泉の国から戻り、冥界の穢れを落とすために禊(みそぎ)を行ったとされる阿波岐原(あわぎがはら)という地名が出てきます。
大岡さんのご実家はこの阿波岐原にあります。

語りの上手な祖母を通じて神話や民話に親しみながら育った大岡さんの幼年期。
宮崎県では、現在も300箇所以上の場所で神楽が伝承されています。
山岳写真家である大岡さんの父親も夜神楽の魅力に取り憑かれて取材をしていたそうです。

古事記の舞台となる場所を身近に感じられる宮崎県は、日本の神さまたちのふるさとのような場所。この地に生まれ育ったことは、大岡さんの制作活動に影響を与えているようです。


いのちを生むかみさまになる

  • 大岡弘晃さんの作品
  • 大岡弘晃さんの作品
  • 大岡弘晃さんの作品
  • 大岡弘晃さんの作品

白い紙に色を置く。
そこに違う色を混ぜる。

色が混じり合う瞬間を目にすることは、命がつくりだされる瞬間を目にしているような、何もない星に大地が生み出される瞬間を見ているような、そんな気持ちになると大岡さんは言います。

「そうやって、生まれてきた愛おしい色たちに、『うまれてきておめでとう』とおくるみで包んだり、金の王冠を被せてあげるような気持ちで、作品に金彩を施しています。」

金彩を用いた技法は、生まれてきた作品への大岡さんからの祝福の気持ちを表しているようです。

古事記のなかには、夫婦神イザナギとイザナミが橋の上に向かい合って立ち、鉾(ほこ)で潮をかき鳴らし引き上げた時に、その鉾からしたたり落ちた潮が積もり重なって島になったという場面があります。

作品が生まれてくる時に見えてくる、もう一つの瑞々しい世界。

それは、もしかすると大岡さんが生まれた場所の持つ記憶のようなものが、描かれた作品の世界と重なっているのかもしれません。


作品に込めているもの

大岡弘晃さん

『絵のなかに自分の思いはいれない』と大岡さんは言います。
アーティストの中には、自らの思想やメッセージを込めて作品を創り出す人も多いはず。
では、大岡さんがその作品に込めているものは何なのでしょうか?

『僕が作品の中に込めたいのは、土地のエネルギーや、その土地が経てきた時間のつくりだしている空気のようなものです。』

作品を発表する場所を訪れ、その地で滞在制作を行うことが多い大岡さん。
訪れた場所がどんな場所なのかを知ろうとすることを、大岡さんは、『場読(ばよ)みをする』と言います。
それは、訪れた場所で自分が何を感じるかに五感を研ぎ澄ませている状態のことだそうです。

自分の身体を器にして、世界と交信する。
大岡さんの創作へのアプローチは、目に見えない存在と対話して人々を導く沖縄のユタや、ネイティブアメリカンのシャーマンを彷彿させます。


あらゆる場所に灯る光を

  • 大岡弘晃さんの作品
  • 大岡弘晃さんの作品
  • 大岡弘晃さんの作品

生まれたばかりの世界にきらめく命の雫のような、愛おしく優しい何か。
今日もアトリエでは、新しい作品が生まれていきます。

大岡さんは昨年、制作の拠点となるアトリエを鹿児島にかまえました。
生まれ育った宮崎とは異なる、桜島の麓にあるエネルギーにあふれた場所です。

「あらゆる場所に灯る光を描けるようになりたい。誰かを励ます光や、寄り添う光や、強い光を描きたい。
絵を描くことで、感情や空気感を、色と金色の光で表現することを突き詰めていきたい。」

「今は目の前のことを一つ一つこなして自分の絵をさらに良くすることしか頭にないんです」と語る大岡さん。

「これからもさまざまな場所をもっと旅して、自分の技法の引き出しをたくさん増やして行きたい。
〈聖なる混沌〉、それは自分にとって宇宙のようなもののイメージなんだけど、それを描くための修行の途中にいるのかな」

自らの人生を修行になぞらえる大岡さんですが、おおらかで慈しみの気持ちにあふれた自由な生き方は、〈修行〉というストイックなイメージとはかけ離れた、魂を成長させる旅のようなものであるようです。

〈あらゆるところに灯る光〉

大岡さんの描きつづける光。
まばゆくあたたかな存在は、その光を見るわたしたち、ひとりひとりの命に優しい祝福を今日も囁いてくれます。

TEXT|Mao Aoki (@gallery.kasper)

大岡 弘晃
大岡 弘晃|HIROAKI OOKA
宮崎県生まれ。高校卒業後制作活動をスタート。2009年初個展。影を使ったインスタレーションを中心に活動をしていたが、影を使うことよりもモノに光を当てること、光そのものを作ることへ執着していることに気づきそれと同時に表現を絵画に変える。
2015年より絵画の展示を開始する。自分が作った光(他の束)に金彩を重ねる方法で過去の苦しい自分を助けられる、メッセージを伝えられると信じて精力的に絵画を生み出している。
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