想いをつなげる
四季折々の気候風土とつくり手が育む、さまざまな食材。その中でも「肉」という食材には、生産者、シャルキュティエ、熟成士、料理屋など、多彩な目利きがいます。また「肉」とひと口にいっても、扱う種類やおいしさの極め方はそれぞれ。
個性豊かな彼らに共通するのは、日々の食卓を彩る “とっておき” の食材を、信念をもち追及しているということ。そして、肉に並々ならぬ愛情をもち、お客様にしあわせな時間も一緒に届けているということです。
バイヤーが各地へ赴く中で培ってきた、数々の出会い。今回は、生産者の想いや羊そのものの魅力も届ける、東京のジンギスカン店をご紹介します。
Interview
羊SUNRISE 関澤波留人さん
- 『羊SUNRISE』代表の関澤波留人さん
羊肉へのイメージを覆す『羊SUNRISE』が麻布十番に1号店を構えたのは、2016年のこと。その名に “羊の夜明け” という意味をつけたのは、代表をつとめる関澤波留人さんです。
羊のすばらしさを伝えたいと、ジンギスカン店のほかに羊の認知度を上げる取り組みも行う関澤さん。2000年代初頭のジンギスカンブームで魅力に取り憑かれ、ブームが落ち着いた後も100店舗以上を食べ歩きました。そして、国内流通量が1%未満という国産羊肉のおいしさを伝えたいと、家族に相談して北海道の名店で修行。国内のめん羊牧場を自家用車で3000km走って訪問し、羊大国・オーストラリアの牧場も視察。念願のジンギスカン店を開きます。
こう聞くと順風満帆なようですが、最初のハードルは、日本のめん羊農家との出会いだったそうです。
「いまもラムやマトンに『くさい』『硬い』『まずい』といったイメージをもつ方がいらっしゃいます。とくに当時、日本のめん羊農家さんにとって、ジンギスカンは羊肉のイメージをさげる料理。ジンギスカンのせいで羊までネガティブに思われると、憤慨するめん羊農家さんも少なくありませんでした」
また、そもそも日本のめん羊農家自体が50〜60軒ほどしかなく、それぞれの年間出荷頭数は100頭ほど。さらに、めん羊農家のリストが明確にあるわけではないという状況もあったと続けます。
「最初は、車中泊をしながら15軒ほど周り、直接想いを伝えてゆきました。『ジンギスカン店には卸さないよ』というお返事がほとんどの中、想いに共感してくださる1〜2軒のめん羊農家さんが見つかり、今ではありがたいことに20軒ほどお取引しています」
- 海外では繁殖期は年2回。国産羊の場合は年に1度のため、とくに希少。食むエサや気候など、季節によって味も変わる
当時から今も変わらず、『羊SUNRISE』では現地へ足を運び、品質、エサや厩舎の状況などをしっかり確認。めん羊農家さんと話し、羊飼いとしての想いを感じた牧場から一頭買いします。
そして、屠畜場で屠畜後、しっかり血抜きをしてから、枝肉の状態で2店舗あるお店へ。それぞれのお店にいるカットの担当者が丁寧に切り分けます。
「なぜ一頭買いをするかといえば、羊という動物に対して愛情をもち、大切に育てるめん羊農家さんの想いまで届けたいからです。羊は、豚と同じく捨てるところがほとんどありません。だからお店では、余すことなくすべておいしく召しあがっていただけるよう、いろいろなメニューでお出ししています」
熱い想いをもつ関澤さんをはじめとする『羊SUNRISE』のメンバーにとって悔しいのは、ジンギスカンやラム、マトンなどに対する「くさみがなくておいしい」という表現。くさみがないのは当たり前。そのうえで、羊肉ならではの赤身の旨みや、上品ですっきりとした脂の甘み、繊細な肉の香りなどをたのしんでほしいといいます。
「なぜくさみが出るかといえば、まず処理の問題。羊は血液量が多いので、丁寧に血抜きをする必要があります。そして、きちんとカットして上手にパッキングしないと、血が酸化してくさみが出るんです。
もう一つ大事なのは鮮度です。魚とともに “鮮” という漢字の語源になっているほど羊の歴史は古く、新鮮であることが大事。僕たちが扱う羊肉は、日本なら屠畜からお店へ出すまで約1週間。海外産の場合も、空輸でだいたい2週間ほど。素早く新鮮なうちに提供することで、クリアでクセのない味わいをおたのしみいただけます」
- お客様とコミュニケーションがとりやすいカウンター式の店内(神楽坂店)
「本当においしい羊を食べていただきたい」と、一途に歩み続け、今やすっかり予約必須の評判店。お店は2店舗に増えました。ただ、当初から変わらず大切にしていることが、もう一つ。それは「お客様にたのしんでほしい」ということ。
その言葉通り、店内は和気藹々とした雰囲気。スタッフがお客様の気持ちをほぐしながら、最適な焼き加減でお料理を提供しています。
「おいしいのは当たり前です。それをさらにおいしく感じるには、環境も重要。ふだん羊肉を召し上がる方も、そうでない方も、『羊SUNRISE』で羊肉のあたらしいイメージを感じていただけたらうれしいです」