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people想いをつなげる

ありのままの生きる場所『しょうぶ学園』

2023.10.26
ありのままの生きる場所

年齢や性別、言語を超えて、心の琴線に触れるものがあります。「うつくしい」「たのしい」「うれしい」など、シンプルに訴えかけるもの。思わず手にとってしまうもの。そのような存在を目指し、商品づくりに取り組んだつくり手が、知的障がい者支援施設『しょうぶ学園』です。

「DEAN & DELUCA ホリデーオーナメント缶 3種 ART WORK BY SHOBU GAKUEN」
「DEAN & DELUCA ホリデーオーナメント缶 3種 ART WORK BY SHOBU GAKUEN」
「DEAN & DELUCA ホリデーオーナメント缶」2023 EDITION
「DEAN & DELUCA ホリデーソックス 2種 ART WORK BY SHOBU GAKUEN」

使用したのは、利用者が描いたアートです。心の赴くまま、伸び伸びと引かれた線や色は、まさに唯一無二。このような作品が生み出される背景には、福祉の枠を超えたしょうぶ学園の在り方によるところも大きくあります。

そこで、しょうぶ学園主宰の福森 伸さんにインタビュー。施設を続けるうえで大切にしていることや、そこから生み出される作品、日常などについて伺います。

INTERVIEW

それぞれの持ち味を活かすケア

そもそも“知的障がい者支援施設”とは、知的障がいのある方々のデイサービス施設や生活施設をいいます。入所者は、生活をしたり、必要な訓練を行なったり、仕事をするなどして、一般社会になじむ活動を行います。しかし、しょうぶ学園では、利用者が“ありのまま”であることを大切に。「つくることは生きること」という言葉を掲げ、一人ひとりの持ち味を大切にしたケアを行います。

「根っこには、先代の理事長から引き継いだ『己の欲せざるところ人に施すことなかれ』という孔子の言葉をもとにした理念があります。相手の立場に立ち、自分がして欲しくないことはしない。利用者にはもちろん、スタッフ同士、施設そのものなど、何事にも正直に、やさしくあることを大切にしています」

  • ありのままの生きる場所
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  • ありのままの生きる場所

この理念から生まれたのが、利用者の手がけるクラフトワークやアート作品です。2021年現在、約200名のうち60名ほどの利用者が、工芸・芸術・音楽・食などの活動に携わっています。

その始まりは、現在の『木の工房』の前身である『木工班』。1983年ごろ、民藝に憧れた福森さんが、2〜3人の利用者と始めたプロダクト制作がきっかけだそうです。

削り過ぎて、木がなくなってしまうこともあったのだとか
削り過ぎて、木がなくなってしまうこともあったのだとか

​ 最初は、ちゃんとできる人にだけに手伝ってもらい、できない人は“お遊び”と見なしていました。ところがやがて“お遊び”から生まれる、削り過ぎたり傷つけたりといった、自分たちとは違うズレに魅力を感じます。

「初めは売り物なのだから『できるだけ、きちんとしたものをつくりましょう』 と教えていました。でも、ズレを“うまくできない”と捉えるのではなく、削り過ぎる人は削り過ぎる人になればいい。それが、その利用者のありのままなのですから。その人そのものを尊重することが、私たちの援護のかたちだと気がついたのです。ありのままがよいなら間違いはありませんし、向かないことはしないだけです」​

ひたすら刺繍することに心地よさを感じる利用者もいる
ひたすら刺繍することに心地よさを感じる利用者もいる

​利用者は、周囲に合わせたり、人の教えを守ったりといったことが難しい場合もあります。それはつまり、自分の心にとても素直ということ。だからこそ、好きなことや得意なことには驚くほどの集中力を発揮するそうです。また、とてもマイペースで、他人と自分を比較しません。

「比較しないことは、競争社会でもある一般社会では弱いかもしれません。でも、創作においては素晴らしい。隣で何をしていたって気にせず、他者の影響を受けません。そうした姿をいいなと羨ましく感じながらも、私たちは到底マネできないんです」​

同じモチーフを延々と描く人も
同じモチーフを延々と描く人も

​こうして生み出されるのが、世にいう「アート」です。ところが福森さんたちは、別にアートをやりたいわけではないといいます。

「利用者にとって心地いい環境を整えると、アートが生まれるんです。絵を描きたい人には画材を。刺繍をするのが好きなら、布と針と糸を用意する。“その人らしくあれる白紙を渡す”というケア。大切なのは、一人ひとりが満足した日々を過ごせることです」​

誰もがハッピーな関係性と場所づくり

人間が生きるためには、生活の糧や、他者との関わりが必要です。それは、知的障がい者である利用者にとっても同じこと。しょうぶ学園では、ありのままの利用者と社会をつなげることが、生きる糧になっています。

利用者の絵をプリントした野外フェスのオリジナルTシャツ
利用者の絵をプリントした野外フェスのオリジナルTシャツ

一つが、ものづくりを活かした商品です。たとえば、利用者が刺繍を施した布地をスタッフが布小物やシャツに仕立てたり、利用者のアートを活かした商品開発に企業と取り組んだり。それぞれの得意を活かすことで、両方が活きたものが生み出されます。

しょうぶ学園では、これを「マッチング」と表現。お互いに認め合う関係性を大切に、福祉にとらわれないものづくりをしているそうです。

「つくっている本人にとっては“今の自分”が満足することが大事だから、出来上がっても執着しない傾向があります。ですから、その中からスタッフがピックアップして、アートや商品として見てもらえるよう整えることも、ケアの一つです。

この時に、福祉の側から一般社会へのトンネルをくぐると、福祉のフィルターがかかりがち。そうではなくて『しょうぶ学園の絵がほしい』と、そのものに魅力を感じてくださる関係性がいいと思うんです」

  • しょうぶ学園
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  • しょうぶ学園
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もう一つが、施設を開かれた場所にすること。緩やかな曲線を描く道、かわいい小川、ほどよく隠れられる木々など。もとを辿れば、利用者が心地よく過ごせるよう整えた環境は、家族連れやカップルなどがゆったり過ごす場所として少しずつ評判に。ベーカリーカフェや蕎麦屋などの飲食店をつくり、音楽や演劇を披露する劇場を整えたりすることで、さらにオープンな場所になっています。

「福祉施設の役割の一つとして、知的障がい者が一般社会で共生することを目指すというのがあります。ところが、マイペースな彼らにとって、一般社会はどうしても生きにくい。だからしょうぶ学園では発想を変えて、彼らがありのままでいられるこの施設を開き、障がいがあろうとなかろうとハッピーな場所づくりをしています。

ここは、彼らの社会です。郷にいれば郷に従えじゃないけれど、たとえば挨拶をしないとか、ちょっと服を脱いじゃうとか、急に写真を撮っちゃうとか、一般社会なら驚かれるようなはみ出しもある。それも含めてここでの時間なのだと誰もが捉えているから、ありのままでいられるんです」


欲張らないうつくしさを守る

今や、展示や商品開発、音楽フェスなどでも活躍するしょうぶ学園には、忘れてはならないことがあります。売れるものづくりと、描きたい絵を描くことは別。あくまで本人のペースを大切に。「営業能力を高めない」と福森さん。

1針、1針、じっくりと。同じ繰り返しが利用者に安らぎを与える
1針、1針、じっくりと。同じ繰り返しが利用者に安らぎを与える

「普通なら、たくさん売れれば大きな成果につながるかもしれませんが、私たちは、成果よりプロセスを大事にしています。福祉という立場だからこそ、企業と同じようなやり方で頑張るのではなく、福祉施設でないとできないことがあると思う。一般的には効率が悪いとみなされることも、ここでは人間性が出るという大切なプロセスです。効率のよさを求め始めると、誰がしても同じ。下手もうまいもなくなってしまいます」

福森さんは「私たちが介入することで、彼らの鼻が高くなるぐらいがちょうどいい」と続けます。また「しょうぶ学園の関わった物事を通して、知らず知らず、世の中にハッピーの種が増えたらうれしい」とも。

私たちは、実力以上に頑張ったり、認められたいと願ったり。欲と、隣り合わせで生きています。一方で、こうした欲がないからこそ、彼らが生み出す世界は唯一無二。多くの人を、ハッとさせるような魅力に溢れているのかもしれません。DEAN & DELUCAのシェフと、フレンチビストロ『Ata(アタ)』の掛川哲司シェフがタッグ。旬の魚介と野菜を中心に、『Ata』のスペシャリテを詰め込んだ季節のオードブルをご用意しました。「今回、手土産にも喜ばれる華やかさを意識して、僕のスペシャリテである”蟹肉のパイ焼き”をメインに、旨みのあるシーフード料理などを提案しました。桜色の泡や、色の濃い白ワイン、オレンジワインなどが合うと思います(掛川シェフ)」。

しょうぶ学園|SHOBU GAKUEN
しょうぶ学園|SHOBU GAKUEN
鹿児島県鹿児島市にある知的障がい者援護施設。利用者の個性や適性に応じた支援を大切に、木工・陶芸・和紙・縫いなどのクラフトワークやアート活動、音楽パフォーマンスなどの創作・表現活動も行う。

しょうぶ学園との取り組み

  • Art Canvas Project
    PROJECT
    Art Canvas Project
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