想いをつなげる
DEAN & DELUCAは、食の美しさがもたらす豊かさ、食するよろこびをお伝えするセレクトショップです。伝統と革新、時代と空間の壁を越え、なお人々に愛されていく “定番商品” を地道に選び、つくり手とお客さまの橋渡し役となることがミッション。
「ラ・ヴィエイユ・フランス」は、そんな想いを共有して、長いお付き合いを重ねてきたパティスリーのひとつです。DEAN & DELUCAとの出会いは、10年以上前に遡ります。
オーナーシェフ・木村成克さんの、フランス菓子に対するリスペクト。伝統製法を忠実に守りつつ、オリジナリティを追及するスタイルと高い技術力。そして何より、つくり手としての人となりに、バイヤーが感銘を受けたのが始まりでした。スイーツのみならず、コンフィチュールやガトー・サレ(甘くない塩味の菓子)まで幅広く揃える商品構成は、DEAN & DELUCAが目指す “Artisanal grocers(職人型食料品店)” そのものでもあります。
今回は、千歳烏山にあるパティスリー本店を訪ね、木村シェフから見たフランス菓子の魅力、パティシエという仕事、誇り、夢などについて語っていただきました。
- 木とレンガの質感を生かし、ブラウンを基調にまとめた温かみのある店内。地元の人々だけでなく、遠くからはるばる足を運ぶファンも多いそう。
INTERVIEW
パリの老舗パティスリーのエスプリを受け継いで
- 古木の柱や梁、レンガを使ったアンティーク風の内装が素敵ですね。落ち着きがあって、温かみにあふれていて。日本ではなく、まるでフランスのお店に来たようです。
- お客さまからも、よくそんなふうに言っていただきます。店名の「ラ・ヴィエイユ・フランス」も「古き懐かしきフランス」という意味なんですよ。私が修業し、のちにシェフパティシエを任されたパリ6区の老舗パティスリーの名前でもあります。派手さはないけれど、流行り廃りに流されないフランス菓子の粋を体現したような店で。師匠のルネ・エルマベシエールからは、お菓子づくりの技術だけでなく、背景にある文化への理解、店づくりに必要な視点、職人としての心構えなど、パティシエとして生きるために大切なすべてを学びました。自分の店を同じ名前にしたのは、そんな恩師へのオマージュでもあるのです。
- 壁一面にジャムやコンフィチュール、コンポートの瓶詰が並ぶ眺めは圧巻。
- ミルクジャム、リュバーブやオニオンなど、果物以外のバリエーションも充実しています。
スイーツだけに留まらない幅広さがフランス流
- お店に入ると、まず壁いっぱいに並浮ぶ瓶詰のコンフィチュールに圧倒されます。フルーツだけでなく、野菜の酢漬けやオイル漬けまで! 焼き菓子も、スイーツ以外のサレ菓子が充実しています。日本では、あまり見られない光景ですよね。
- フランスらしさと言っていいと思います。パティスリーといえば甘いお菓子だけでなく、パンや惣菜、瓶ものも一緒に並んでいるのが現地流ですからね。もっとも、コンフィチュールに関しては、1軒目に修業したアルザスのパティスリーの影響が強いかもしれません。
- ストラスブールの「ネゲル」ですね。
- 1927年創業の老舗ながら、家族経営の小さなパティスリーです。四季を通じて自然が豊かで、旬の食材に恵まれていて。フランスに来て初めての修業先だったこともあって、ここでも本当に多くの学びがありました。鮮度のよい素材を吟味して選ぶことの大切さ。それらを加工して保存食に仕立てる技と創造性。手をかけて丁寧に調理することの意味。そして「ケーキ屋で甘くないものを売っていいんだ!」という単純な驚きと(笑)。もともと食べること、料理全般が好きなこともあって、自分で店を持つなら同じようなスタイルでいきたいという思いにつながりました。
- オイル漬けや塩水漬け、酢漬けなど、旬の野菜を使った “トレトゥール(お惣菜)” 系の瓶詰めも。
- おつまみに付け合わせにと、あれこれ試したくなります。
- 春のお菓子としてお目見えしたブリック・オ・ショコラ・バナンヌ(左)。
- アルザス修業時代の思い出が詰まったエコセ(右)は、店のフラッグシップともいえるお菓子の一つ。
クラシカルで新しさもあるシグネチャースイーツ
- そんな「ラ・ヴィエイユ・フランス」で、シェフにとっての “シグネチャースイーツ” とは? とくに、初めての方に食べていただきたい、こだわりの焼き菓子と生菓子を、1品ずつ教えてください。
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エコセ
フランス・アルザス地方の伝統菓子です。ココアとメレンゲ入りの生地と、クリーム色のバターケーキとの2層をなす、シンプルな美しさのパウンドケーキ。当店のエコセは、先ほどお話ししたストラスブールの「ネゲル」直伝のルセット※1 です。スポンジ生地にはキルシュ※2 を含ませ、V字型に薄くバタークリームを忍ばせて、見た目よりも大人っぽい味わいに仕立てています。表面には、アーモンドクランチをたっぷりまぶして、香ばしく。今も交友がある「ネゲル」のシェフも「うん、この味だ!」と太鼓判を推してくれています。
- 生菓子「ブリック・オ・ショコラ・バナンヌ」
- こちらは、カカオ分が68%と高い「ヴァローナ社」の「バリ」を使用したチョコレートムースの下に、バナナ、オレンジ、レモンのコンポートを組み合わせています。カカオ豆は、ネーミングのとおり、インドネシアのバリ島産。それ自体にフルーティーなアロマがあり、苦みの輪郭もしっかり立っているため、トロピカルなフルーツの酸味と相性ぴったり。見た目は濃厚ですが、熟したバナナの甘やかな香りや柑橘系の爽やかさが感じられ、夏場でもさっぱりと食べられますよ。
- ※1:ルセット……フランス語で「レシピ」のこと。調理や製菓の配合やつくり方、写真などが記載されているものも指す。
- ※2:キルシュ……発酵させたさくらんぼの果汁からつくられるブランデーの一種。製菓では、ケーキをはじめとした焼き菓子、シロップ、カスタードクリームなどの香り付けに使用される。
- 木村成克シェフ。パティシエのみならず、ショコラティエ(チョコレート職人)や
- グラシエ(アイスクリーム職人)としての腕にも定評があります。
- どちらも、おいしそうですね。説明を伺っていると、心からお菓子が好きでいらっしゃるのが伝わってきます。シェフは、そもそも、なぜパティシエを目指そうと思われたのですか?
- 父親が製菓職人だったことが大きいかもしれません。自分が子どもの頃は、大阪のホテルで洋菓子をつくっていて、家に持って帰ってくるアイスクリームやケーキを食べて育ちました。貧乏だったけれど、おいしいお菓子には恵まれていた。そんな“食育”が効いて、自然と父親と同じ道を志すようになったのだと思います(笑)。
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いろいろなお菓子がある中で、なぜフランス菓子を?
- まず、小さい頃から漠然と外国に対する憧れがありましたね。3才のときは「青い目の女の子と結婚するんだ」と宣言していたらしいです(笑)。当時は日本で洋菓子といえばスイス、ドイツ、オーストリアが主流でしたが、自分の場合は20歳の頃からポール・ボキューズのパティスリーで働くようになって。そのうちフランス修業のお話をいただくご縁があって、自然とフランス菓子を極めたいと思うようになりました。
- 千歳烏山本店のショーケース。
- 伝統的なルセットによる定番のフランス菓子から、創意工夫が光るシェフオリジナルまで、幅広いスイーツが並びます。
基本を守ってこそのオリジナリティ
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フランスでの修業は通算11年半に及んだと伺っています。本場にいたからこそ体感できたこと、現在のシェフの店にも引き継がれているフランス伝統菓子の本質とは?
- フランスの師匠たちから共通して学んだのは、基本を大切にすること。小手先の流行や技を追うのではなく、正調のルセットで、きっちり丁寧に手をかけてつくる。この土台が揺らいでいると、人を感動させるお菓子にはなりません。だから、自分のつくるお菓子でも、あえて日本風のアレンジを加えることはしたくない。新しい商品を考えるときは「フランス人が食べて、おいしいと言ってくれるかどうか」を、いつも頭の片隅に置いています。
- 一方で “ブリック・オ・ショコラ・バナンヌ” をいただくと、伝統を踏まえながらも、木村流のオリジナリティを打ち出されているのが、わかります。
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学んだことをグレードアップさせる考え方ですね。アレンジして形を変えてしまうのとは違う。たとえば、一つのお菓子の中で2種類以上のフレーバーの組み合わせを考えるとき。チョコレートとバナナ、フランボワーズとピスタチオといった、いわゆる王道の組み合わせがあります。私は “鴨ネギ” と呼んでいるのですが(笑)。かたや、チョコレートとカシス、紅茶とアンズのような、サプライズ系の合わせ方もある。和菓子でいえば “苺大福” みたいな、ね。アイスクリームやマカロンのフィリング、ジャムの材料でも同じこと。ベースがきちっとつくられていれば、フレーバーで遊んでもスタイルがブレることはなく、むしろ二乗のおいしさを発見することに繋がります。
- ショーケースの対面は、ダコワーズやクッキー、ガレット、サブレなどのガトー・セックがぎっしり並ぶ焼き菓子コーナー。
- 別の一角には甘くないサレ菓子を集めた
パティシエを目指すすべての人に伝えたいこと
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第一線のパティシエとして腕を奮うだけでなく、若手の育成にも力を入れていらっしゃいますね。後進の皆さんに、一番伝えたいと思うのは、どんなことでしょうか。
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手先の技術ばかりを磨くのではなく、心を込めること。心を込めて、生産者の顔が見える安全な食材を選ぶ。栽培や届けられるまでの苦労に思いを馳せながら、心を込めて加工する。そうした心遣いと想像力がなければ、フランス菓子の基本である素材の目利きの技術も身につきません。そして、自分のお菓子について絶えず考え、より高みを目指すこと。24時間考えたっていい。もちろん、簡単なことではありません。でも「これで十分と思ったら、おしまいだぞ」と、いつも言っています。
- 季節のフルーツを使った様々な焼きタルトやアントルメの豊富さも、パリのパティスリーさながら。手土産や記念日のスイーツにも。
お菓子は人生に彩りと喜びをもたらす
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最後に、木村シェフにとって、お菓子とは? この先の夢や展望についても、お聞かせください。
- お菓子は人生を豊かにしてくれるもの。自分の場合は、とりわけ人との繋がりで、言葉にできないほどの宝物をもらいました。恩師の教えや思い出はもちろん「ネゲル」ファミリーとの友情をはじめ、今もお菓子について熱く語り合える盟友に出会えたことは、本当に幸せなことだと思います。これからの夢は、スイーツ以外のトレトゥール(惣菜類)も拡充させながら、より思い描くパティスリーの理想に近づけていくこと。大それたビジョンは、ありません。これまで通り“一期一会” を大切にしながら、食べた人に喜んでいただけるフランス菓子を心をこめてつくり続けたいと思っています。
ラ・ヴィエイユ・フランスのお菓子をご自宅で味わう
- ラ・ヴィエイユ・フランス アイスケーキ アボンダンス ¥5,500税込
- ヘーゼルナッツ入りのバニラアイスをスポンジで巻き、ピスタチオ、フランボワーズ、チョコレート、バニラ、マンゴー、ピーチ、キャラメル、アーモンドミルク。8種類のアイスクリームとソルベをのせて仕あげました。