想いをつなげる
素朴だけど忘れられない、アメリカのママの味を召し上がれ
「アメリカン・ケーキは、本来家庭でつくるもの。家庭でつくれば、アメリカのダイナーやお店で売られているものと違って甘くないですよ」と語るのは『松之助』をプロデュースする平野顕子さんです。アメリカ北東部に位置するニューイングランド地方の伝統的なケーキをつくり、そのやさしい味わいを広めています。
平野さんがつくるケーキの代表格は、アップルパイ。とはいえ、薄いパイ生地が幾層にも重なり、リンゴがジャムのようなヨーロッパのパイとは別物。まず、パイ生地は、バターとショートニングの塊を点在させます。そうすることで、さっくりとした食感を生むのです。また、リンゴを生のままパイ生地に入れ、リンゴそのもののおいしさをたのしむ。それが、アメリカのパイの味なのだとか。
「ヨーロッパのケーキは宮廷で仕えていたシェフが町で広めたけれど、アメリカのケーキはママの手づくり。私の見解では、ヨーロッパのケーキが絹の味なら、アメリカのケーキは木綿の味。木綿には、木綿のよさがあるでしょう?」
子どもたちも成長し、40歳を過ぎた頃。平野さんは、若い頃、渡米したものの事情があり果たせなかった大学卒業を目標に、単身渡米します。その際、家庭の手づくりケーキに出会ったのです。
「もともと知り合いだった教授が、歓迎会でお手製のポピーシードケーキを出してくれて。それが、すごくおいしかったんです」。それは、曾祖母の代から家庭に伝わるケーキの味でした。平野さんは、教授に「ニューイングランド地方に限定したケーキを、日本へ持ち帰ったら?」とすすめられ、早速ケーキの先生のもとを訪ねます。その一人が、アップルパイコンテストで優勝したシャロル・ジーン先生でした。ジーン先生のレシピを、平野さんは再現しているのです。
今でも家族のような付き合いをしている先生から、パイやスコーンなどニューイングランド地方の伝承的スイーツを伝授してもらった平野さん。帰国後、2000年10月に京都本店 『松之助』、2004年3月には代官山に『松之助N.Y.』をオープン。販売はもちろん、教室も併設し、アメリカン・ケーキのつくり方を広めています。
日本の料理には砂糖やみりんが使われますが、アメリカでは料理に砂糖を使いません。そのため、デザートで甘い物を食べる習慣があり、食後にママが焼いたスイーツを家族で囲むのです。
「ケーキは家族の絆のようなもの。人と人を結ぶ媒体というのかしら。ケーキを囲んで会話が生まれる。お母さんの手つくりの味を食べれば、愛されているという実感が湧くと思うんです。素朴だけど、本当においしい」
豪勢ではないけれど、また食べたくなるのが、ママの味。「お袋の味」とは日本でも言われますが、アメリカにもあるーー。それが、平野さんのつくる、やさしくて素朴なアップルパイ。
マーケットストア&カフェで味わう、アメリカのママの味
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松之助 N.Y.ニューイングランドクランベリーケーキ
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松之助 N.Y.キャロットケーキ
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松之助 N.Y.サワークリームアップルパイ
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松之助 N.Y.ニューヨークチーズケーキ