サイトヘッダー

people想いをつなげる

日常に新しいしあわせを『後藤裕一シェフ』

2024.03.11

心に残るスイーツを思い浮かべるとき、その味わいと共に、大切な人との記憶がよみがえるという方もいるでしょう。スイーツには、誰かとおいしさを分かち合うよろこびがあります。

そのような本来の姿を思い描いて、パティシエと一緒につくるオリジナルスイーツがあります。いずれも、日常のひと時で味わっていただけるように。そして、ギフトにも選んでいただけるようにと考えた顔ぶれです。この取り組みをともにしているのが「Tangentes(タンジェント)」の後藤裕一さんと仲村和浩さん。それぞれに活躍するパティシエであり、企業の商品開発なども手がけるコンサルティングチームです。

レストランのパティシエ出身として、目の前の料理が生み出す物語を、どのように紡ぎ、終わらせるか。いま求められていることをパッと読み解き、アウトプットするアイデアに長けた後藤さん。そして、大切な一人のよろこぶ姿をイメージしながらスイーツをつくる大切さを胸に。個性派パティスリーやホテルのシェフパティシエを経て、多くの人に届けるために必要な物事にも精通した仲村さん。

二人は、同じパティシエではありますが、歩んできた道が違います。だからこそ、それぞれの強みを活かしたチームとして、求められた以上のおいしさが提案できるともいえるのでしょう。

そんな二人のルーツとは。ここからは、後藤さんの歩みとスイーツへの想い、そして、これからについて伺います。

Interview

後藤裕一シェフ

多くの食いしん坊を惹きつけてやまない後藤裕一さん(写真左)

東京・幡ヶ谷で「町のお菓子屋さん」をテーマに「Equal(イコール)」を営み、代々木八幡のビストロ「PATH(パス)」ではシェフパティシエを務める後藤さん。2017年から「タンジェント」を始動。レストランパティシエ出身の職人として、活躍の場を広げています。

その姿は、意欲的で活動的。ところが「仕事を始めてから、つねに悩んでいる」といいます。

「なぜ、日本人の自分がフランス菓子をつくるのか。そして、自分にどんな強みがあるのか。ずっとずっと考えています。それは、レストランで働くパティシエが日本ではまだまだ少なくて、その地位が確立されていないことでの難しさであり、おもしろさなのかもしれないんですけど」

パティシエを目指したのは、大学の法学部に在籍していた20代前半。食べることの好きだった後藤さんが、自分の手に職をつける道に進みたいと、ものづくりに関心を持ち始めた頃でした。「オテル・ドゥ・ミクニ」のケーキショップでアルバイトをする中で、誰かとおいしさを分かち合えるスイーツに魅せられます。

「『ミクニ』へパティシエとして入社後、レストラン部門に配属されたのですが、そこで見た料理人たちの熱量にやられました。当日の料理やお客さまのため、現場で繰り広げられる、まるで命を燃やすようなライブ感。イコールを小さなお店にしたのは、その熱量を表現したかったというのもあります」

新宿の「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」で1年間働いたのち、30歳でフランス・ロアンヌの「トロワグロ」本店へ。最初はフランス語もままならないため、掃除や仕込みを任される日々でした。しかし、わずか3ヶ月でシェフパティシエに抜擢されます。

「あの頃は、不思議な感覚があって。フランス語はよく分からないけれど、シェフに試作品を出したとき、相手がこのスイーツを、どうしてほしいのかが言葉以外で分かったんです。それは『ミクニ』や新宿の『トロワグロ』で、偉大なシェフたちと一緒にやってきたからこその“感じる力”だったのかもしれません」

あくまでも料理が主役のレストランにおいて、パティシエの役割を「料理をどう引き継ぐか」と後藤さん。言葉を超えて、目の前のベストを感じ、料理人の意図を読み解き、パティシエとして形にする。その繰り返しから“感じる力”は自ずと鍛えられたのかもしれません。



フランス菓子とは何たるやを知りたくて渡った、4年間のフランス。その経験は、後藤さんが目指すことを示してくれました。

一つは“スイーツを通じてライフスタイルの一部になる”。

食べて「しあわせ」と感じる。そして、誰かと「おいしいね」と分かち合う。スイーツ本来の魅力が後藤さんの出発点にあります。そしてフランスで目の当たりにしたのは、フランスの人たちがスイーツ本来のしあわせを、暮らしの中でたのしむ姿でした。

帰国後も、何より大切に、伝えたいと感じたのは、スイーツが生み出す純粋なよろこび。イコールが、子どもからお年寄りまで、誰もが今日のおやつを買いにくる気さくなお店であるように。パスに、町の人が食の時間をよりたのしむ品揃えがあるように。スイーツが、人の心や時間までをも動かし、ライフスタイルの一部になっていく。フランスに根付いた文化が、日本でも日常になること。

DEAN & DELUCAと共につくった「ティラミス」は、大ぶりながら、クリームのたて方や味わいに新たな工夫を。一人ですっきり食べ切れてしまう

もう一つが“新たなスイーツのスタイルをデザインする”。

丁寧に素材に向き合い、つくり上げるのは当たり前。偶発的なライブ感も生かしながら、スイーツに、自分の“手”で何ができるかが重要。その先に「おいしい」「おいしそう」と感じるしあわせがあるといいます。近頃では、スイーツ自体の新たな仕組みや枠組みをつくることにもよろこびを感じるそう。

「みんながやるようでやらないことを思いつくと、すごくうれしい。いつか教科書の一部になっていけるような新たなスイーツを、奇をてらわずに探っていけたら」

そのためにも、これからのパティシエの働き方も模索していきたいとのこと。今の世代のパティシエとして、先輩から渡されたバトンをどうつなげ、スイーツをつくり上げていくか。クラシックの素晴らしさを胸に、時代に寄り添っていく。

いつの時代も、イノベーションには困難がつきものです。だから後藤さんは、悩み続けるのかもしれません。今では根付いたものも、きっと先駆者がもがきながら切り開いてきた道なのですから。


後藤裕一|YUICHI GOTO

後藤裕一|YUICHI GOTO
東京・四谷のフレンチ「オテル・ドゥ・ミクニ」、新宿「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」を経て、フランス「トロワグロ」本店でアジア人初のシェフパティシエを務める。帰国後は「Bistro Rojiura」の原太一シェフとともにレストラン「PATH」をオープン。また、パティシエの可能性を広げることをコンセプトに「Tangentes Inc.」を設立、テイクアウト専門のパティスリー「Equal」をオープンするなど、活躍の幅を広げている。

「Tangentes」のおいしさをご自宅で

関連タグ