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people想いをつなげる

スイーツの向こう側を想像して『仲村和浩シェフ』

2024.03.11

「おいしい」とたのしむよろこび。そして「おいしいね」と誰かと分かち合うよろこび。食べることには、味わいはもちろん、大切な人との記憶が残ります。中でもスイーツは、日常でたのしめる身近なおいしさ。

このよろこびを多くのお客さまに感じていただけたらと、パティシエと取り組むオリジナルスイーツがあります。いずれも、日常のひと時を始め、大切なギフトにも選んでいただけるようにと考えています。想いを共にしてくださっているのが、企業の商品開発などを手がけるコンサルティングチーム「Tangentes(タンジェント)」の後藤裕一さんと仲村和浩さんです。二人は、それぞれ活躍するパティシエでもあります。

レストランのパティシエ出身として、目の前に求められていることを読み解き、アウトプットするアイデアに長けた後藤さん。そして、手がけるスイーツ一つひとつにいる食べてくれる人を、つねに思い描いて。個性派パティスリーやホテルのシェフパティシエを経て、多くの人に届けるために必要な物事にも精通した仲村さん。

前回の後藤さんに続き、ここからは仲村さんの歩みとスイーツへの想い、そして、これからについて伺います。

Interview

仲村和浩シェフ

仲村和浩さんとジル・マルシャル氏

「パティシエになったのは、甘いものが好きだったから。あと、ずっといい匂いがしているでしょう」と笑う仲村さん。高校時代のイタリア料理店でのアルバイトで料理に興味をもち、パティシエが活躍する姿に感銘を受けて、日本の製菓学校へ。その後、留学し、フランス・リヨン郊外の製菓学校を経てアルザス地方で研修して以来、現地へ定期的に足を運び続けています。

「仕事柄もありますが、フランスを自分の中で遠ざけないようにしたいんです。右も左もわからない頃は、見たり食べたりするぐらいでしたが、クラシックなフランス菓子が、教科書で学んだものよりバランスがとれておいしいと感じました。昔からあったものが全く別ものになっているかといえば、そうではなくて。ミルフィーユは、ずっとミルフィーユ。でも、少しずつ、時代や環境に合わせた味が表現されているから、しっくりきたのでしょうね」


ホテルシェフになってからも、研修でフランスへ。現地のパティシエのもと、彼らのスイーツを学びます。「ある程度、技術も経験もついたら、つくり続けることはできます。でも、時代と共に求められることは進化するから、自分をアップデートし続けないと」という仲村さんは、流行にも敏感でありたいのだとか。でもそれは、華やかさを追うからではありません。

「フランスにも流行はあります。でも、日本とフランスでは様子が違うかも。日本では、まねをしないことに意識をもっていくから、他のシェフはまた違う斬新なものをつくろうとします。でもフランスでは、著名なパティシエの手がけるケーキと同じケーキを、至るところで見かける。それは、まねではなくリスペクト。新しいスイーツの表現として受け入れたということなんでしょうね」

流行が定番になっていく。きっと、今では伝統菓子といわれるものも、生まれた当初は新しい表現だったに違いありません。それを多くの人がつくった結果、長く愛されるものになった。仲村さんは「パティシエとして、みんながつくりたいと思える組み合わせや形を、一つでも生み出せたら本望」と続けます。

DEAN & DELUCAと共につくったプティ・フィナンシェは、ちょっとしたギフトに

とはいえ「アーティストではなく職人でありたい」とも。その根底には、仲村さんが大切にしている、2つのことがあります。

「スイーツは本来、とても身近な嗜好品だと思っていて。『ここのが好き』くらいで食べるのが、ちょうどいい。フランスでは、老若男女がふらりとパティスリーに立ち寄って、ケーキを一個だけ買ったりします。そういう日常にスイーツのある風景が好きだから、職人でありたいのかもしれません。

それと、パティシエを目指したときから、今つくっている目の前の一つは大切な誰かのためのスイーツ、と、どこかラブレターのような気持ちで向き合っています。ホテルシェフの頃は、同じケーキを一度に300個つくることもありましたが、一つひとつに食べる人がいて、その人が『おいしい』とよろこぶかどうか。そして、食べて『誰かにも食べさせたい』と思ってくれるか。スイーツの向こう側を想像することで、いいものになると思う」

手の届く日常にしあわせを生み出すのが職人。仲村さんがありたいのは、ケのパティシエなのです。

さらに、食べた人に大切な誰かが思い浮かんでくれたら、と続けます。だからこそ、どれだけたくさんつくろうとも、みんなが「おいしい」と感じるのは大前提。もう一歩先の「あの人にも食べてほしい」と、ギフトになり得るものを目指しているそうです。

デモンストレーションに立つ仲村和浩さん

現在は、これまでの経験を活かしつつ、新しい働き方を模索中。タンジェントに加え、職人と必要をつなぐプラットフォーム「INTUITIONS(インテュイションズ)」の運営や、生産者との協業、福祉との関わり、そして自身の拠点となるお店をつくるなど、パティシエの価値を改めて考えていきたいそうです。

「これからもスイーツを学び続けたいですし、スイーツというフィルターを通して何らかの解決に関わっていけたら。規格外の生産物の流通を手伝うとか、ハンディキャップをもつ方が働く本当においしいお店をつくるとか。日本におけるパティシエが活躍できる場は、まだまだあるはずです」

お店で修行し、シェフになり、経験を積み独立する。いわゆるパティシエ道を歩んできた仲村さんが切り開く生き方。新たなスタイルが定着すれば、パティシエはもっと自由に、伸びやかな存在になるかもしれません。

仲村和浩|KAZUHIRO NAKAMURA

仲村和浩|KAZUHIRO NAKAMURA
フランス・リヨン郊外の専門学校を首席で卒業。アルザス地方「ティエリー・ミュロップ」にて経験を積み、帰国後「パティスリー・サダハル・アオキ」へ入社。「パティスリー・サダハル・アオキ・パリ」を経て、個人店の立ち上げや、ブライダル関連のパティスリーにてシェフパティシエを経験する。2013年「ハイアット リージェンシー 東京」にて最年少でシェフパティシエに。海外より有名パティシエを誘致するなど、多くのブランドを手がけ、クリスチャン・カンプリニ氏、ジル・マルシャル氏のもとでも学ぶ。2018年に独立。タンジェントに加え、自身の取り組み「INTUITIONS(インテュイションズ)」としてもスイーツの可能性を探る。

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