サイトヘッダー

people想いをつなげる

今この一杯から世界へ『Leaves Coffee Roasters 石井康雄氏』

2024.03.21

「日常においしいコーヒーがある豊かさをお伝えしたい」と考える私たちは、世界各地の指定農園と共に、様々なオリジナルブレンドをつくっています。また、私たちが信頼する国内のロースターとも手を組み、ここでしか飲めないブレンドにも取り組んでいます。

年に2回の春と秋にそのときペアリングしたフードにあわせたブレンドが発売されます。

「町のロースタリーから世界へ」をコンセプトに、世界基準のおいしさを国内外に届ける『リーブス コーヒー ロースターズ』。その代表を務める石井康雄さんは、元プロボクサーであり、7店舗の飲食店経営を経て、2016年にコーヒースタンド『Leaves Coffee Apartment(リーブス コーヒー アパートメント)』をオープン。その後、コーヒー一本に注力。バリスタから歩み始め、2019年には現在の焙煎所を設け、2021年には米のコーヒーメディア『Sprudge』が発表した「世界の注目すべきコーヒーロースター部門」で8選に選ばれるなど「町のロースタリーから世界へ」というコンセプトを着実に現実のものにしています。その原動力や思いとは。石井さんに、お話を伺いました。

Interview

コーヒーに生かされている

独学でバリスタを始め、今や国内外で評価される焙煎士の石井康雄さん

信頼のおけるスタッフが集まってきた今も、石井さんは日々店舗に立ち、お客さまの目の前で一杯ずつハンドドリップします。紙独特のにおい成分であるリグニンを減らして最大限に味を引き出すために、湯通ししたフィルターペーパーをドリッパーに取り付けてスケールにのせ、4投に分けてそっと、注文ごとに挽いたコーヒー豆にお湯を注いでいく。その動作や眼差しは、まさに真剣そのもの。今この一杯を“最高”にするための、気迫のようなものすら感じます。

どうしてそこまで真っ直ぐなのですかと訊ねると、石井さんはにこりと微笑んで、ひと言。「コーヒーに生かされているから、コーヒーに対してもお客さまに対しても、丁寧でありたいんです」。

「味わいに惹かれたのはもちろん、追求してもしつくせないおもしろさがあるし、僕の人生に思わぬ出会いを運んでくれるのもコーヒー。大きな言葉になってしまうけれど、だから『生かされている』なんですよね」

世界中のコーヒーを飲み歩き、気に入った味わいのロースターが使っている焙煎機を調べてたどり着いた一台

バリスタにも様々なタイプがいますが、石井さんは、コーヒーの向こう側にいるお客さまやつくり手を思い描きながら、豆のおいしさを引き出す“職人”気質なタイプのよう。

「職人気質なのは、子どものころからですね。自分が本当に好きなことには先生をつけず、独学で、自分が納得するまでやらないと気がすみません。ボクシングも飲食店の経営もコーヒーも、全部そうしてやってきました。

バリスタとしてお店を開くまでに信じたのは、自分の舌だけです。焙煎も、焙煎機選びから、機械の動かし方、そして最適な焙煎にたどり着くまで、全て独学。だからこの機械が無事に動いたときは、ただただうれしかったですね」

「リーブス コーヒーの味わいにお手本はなくて、おいしさのジャッジは、基本的には僕の舌。それをスタッフにも試飲してもらって、みんなの意見が合致したものだけ出しています。

Aという答えや教科書があるなら、なぞれば早いかもしれません。でも、僕は目の前で起こっている、自分の体で感じたことだけを信じたい。そうして出した答えは全て自分の責任であり、だからこそ自信をもって伝えていけるし、理想に近づいていけるのだと思います」


惚れ込んだからこそ

焙煎したての豆は1週間ほど寝かせて使う

もとはコーヒーが飲めず「黒くて苦い飲みものがコーヒー」というイメージがあったという石井さん。それが、2010年の出会いで『知りたい』に変わり、焙煎士になるまでは自然な流れだったと振り返ります。

きっかけは、石井さんが初めて出した飲食店のオープン記念に贈られた、エチオピアのナチュラルプロセスのスペシャルティコーヒー。美しい栗色と果実のような香りに興味を惹かれ、お店にあったコーヒーマシンで淹れたところ、これまで知っていたコーヒーとは別物。フルーティーで軽やかで、その味わいに一気にひき込まれていきました。

「以来ずっと、コーヒーに夢中です。おいしいコーヒーのために、グルテンフリーや玄米食、ヴィーガンを取り入れるなど、食生活もすっかり変わって。惚れ込んだものにはストイックかもしれませんね。

僕は、子どものころからおいしいものがすごく好きで『おいしいって何だろう?』と、ずっと考えてきたし、今もよく考えます。その中でわかったのは、甘さ・香り・油分の3つのバランスで“味”としての『おいしい』は構成されていて、三位一体のバランスが感動をつくること。果実であるコーヒーの場合は、油分が酸味に変わります。どれかが突出しているだけではだめ。たとえば砂糖なら甘いけれど『おいしい』にはならないように、甘くておいしいイチゴもよい香りと酸味があるから『おいしい』。

だからコーヒーも、いわゆるコーヒーとしては捉えていなくて。“人間が飲む一つの飲みもの”という感覚。その中で自分の信じたおいしさを追求しているから、コーヒーが苦手な方にも、僕たちのコーヒーを飲んでほしいと思っています」

現在では、自身を「焙煎士」と名乗る石井さんですが、バリスタとして歩み始めた当初「焙煎はしない」と断言していたそう。しかし職人として、自身の舌を信じていく中で、さらなるおいしさを目指すように。2018年秋から独学で焙煎し始め、わずか3ヶ月でロースターを開きます。

「僕はよく『餅は餅屋』という言葉を使うのですが、やはりその道のプロフェッショナルには勝てません。いろいろ手を出そうと思えばできるかもしれないけれど、誠実に高みを目指すには、餅屋が餅をつくるほうがいいと思う。

だから、バリスタを一所懸命やっていたときは「焙煎はしない」と言っていました。じゃあなぜ焙煎を始めたかといえば、今日おいしく淹れられない理由をコーヒー豆のせいにし始めたからです。自分の信じた理想を、全て自分の責任でやりたくて」

石井さん曰く、コーヒーにとって、一番大切なのは素材。次に焙煎。その次が抽出。いくらおいしく抽出しても焙煎を超えられず、またよい素材を焙煎は超えられない。バリスタとして見えた天井を越えるために、石井さんは焙煎士になったのです。

生豆は届いた袋から開封すると、水分などの影響を受けて状態が変わっていく

石井さんの考える理想の味わいは、産地個性がある素材の味を最大限に引き出した、焙煎からくるディフェクト※がない、後味がクリーンなコーヒー。

「リーブス コーヒーでは、常時10〜15種類のシングルオリジンを紹介しているのですが、生豆に共通するのは、オーセンティックな生産者が自然由来のプロセスでつくっている良質なものであること。生産者との出会いは様々ですが、今は信頼するインポーターからの紹介と、SNSやメールを介して直接連絡をもらって始まるご縁もあります。

そうして届いた生豆を、それぞれに合わせた焙煎で、素材本来の甘さやフルーティーさ、爽やかな酸を引き出していく。DEAN & DELUCAとつくったブレンドの発想も、出発点は同じです。テーマに合わせて産地を選び、いつも通り理想の焙煎を施して、ブレンドのテーマに合わせて味わいのバランスをとっていきます」

※ディフェクト
コーヒーにおいて、風味に悪影響を与えてしまうものや焙煎の均一性を崩してしまうものなどのこと。


週に2日の焙煎日には、一度で6kgの生豆に7〜10分ほどかけて熱を入れ、焙煎していきます。産地やつくり手、さらに届いた豆のその日の状態により、入れる熱や時間は微妙に異なるため、豆の様子から片時も心身を離せません。

「自分で焙煎するようになって、素材の声が聞けるようになってきました。ハンドドリップをするときには、目の前の豆が、今ほしがっている分だけお湯を与える。焙煎なら、同じ生産者の豆でも、その日、その時にほしがっている分だけの熱を与える。説明しようがないけれど、素材と対話しているんです」

とりわけ焙煎では、香りや色など、五感で感じる変化の中でも、大きな目安となるのが音なのだとか。2台ある焙煎機ごとにヘッドフォンを使い分け、微妙な声を聞き分けます。そして、もう一つの変化が、体にかかる圧。

「パチパチという音と、焙煎が仕上がる直前に感じる圧で『くる!』っていうのがわかるんです。ただ、その感覚がそもそもない豆や、本当はあるのに日によってこない場合もあって。そういう沈黙の豆は厄介(笑)。香りと匂いでジャッジするしかありません。だから、失敗することもあって。

失敗は、必ずあります。初めて焙煎する生豆は一度で味が決まらないし、繰り返し焙煎しているものでも失敗する場合がある。とてももったいないし、つくり手のことを考えると心が痛みますが、焙煎に失敗したらスタッフの練習用にしたり廃棄したりして、お客さまには絶対に出しません。僕を生かしてくれているコーヒーに、誠実でありたいから」

焙煎所は偶然見つけた古いビルを改装した。元は肉屋と魚屋で、店内にはコロッケ油の跡が残っている

コーヒーに生かされているから、コーヒーをやり続けたいから、この先を、どう歩んでいくか。これからもずっと「おいしい」を喜び続けるために。石井さんは、後に続く人たちの目標になるようなロースターになっていきたいと続けます。

「コンセプトに『町のロースターから世界へ』と掲げているのは、コーヒースタンドを立ち上げた当初から、100年企業を目指しているからというのもあるんです。地域でも世界でも愛されるお店をつくることで、次世代に味わいをつないでいってほしい。

そのためにも、地球環境にフォーカスを当てることは必要不可欠です。僕たちができることとして、まずはお店から出るごみをなくす。今は、プラスチックを使用したテイクアウトカップは使わない、店内用はマグカップでというのは実践中。ゆくゆくは、豆を持参していただいた容器や袋への量り売りのみにするとか、コーヒーはお客さまが持参したタンブラーだけに淹れるとか、できることから一つずつ切り替えていきます」

販売しているコーヒー豆の袋は、コンポスト可能な地球環境に配慮した素材

目標になるためには道を切り開く必要があり、それは決して簡単なことではありません。しかし、誰かがやらねば道は道にならず、続く者も現れない。

「誰かがやることで後世のコーヒー業界が明るくなるなら、僕がやります」と石井さん。芽吹くための方法を自身で模索し、自ら水を与え、ここまで育ってきたリーブス コーヒー。その枝葉を、のびのびと健やかに育てていくために。

石井さんはこれからも、毎日の「おいしい」を実直に。そして未来の「おいしい」もつくっていきます。


石井康雄|YASUO ISHII

石井康雄|YASUO ISHII
1982年、東京・清澄白河生まれ。『Leaves Coffee Roasters』代表、バリスタ・焙煎士。高校生でプロボクサーとしてデビューし、19歳で引退。数々の仕事を経て、飲食業経営の道へ。7店舗のレストランを経営する中でスペシャルティコーヒーと出会い、2016年に東京・蔵前にコーヒースタンド『リーブス コーヒー アパートメント』を、2019年には東京・本所に焙煎所とスタンドを併設した『リーブス コーヒー ロースターズ』を設ける。
関連タグ