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people想いをつなげる

“調合”から生まれる“調和”の味『伊良コーラ』

2023.07.07

近頃、水や炭酸水で割るだけでたのしめる様々なシロップが親しまれています。その一つが、イギリス生まれのコーディアル。

ほかにも、素材や製法にこだわったレモネード、クラフトコーラなど。いずれも爽やかな味わいで、日々のひと息や、火照った心身のクールダウンにぴったりです。太陽が元気な季節、ますます恋しくなるおいしさのつくり手を2組、訪ねました。

INTERVIEW

オリエンタルな味わいを日本から世界へ

コラの実を始め、カルダモン、ナツメグなど12種類のスパイスと、柑橘類が織りなす独特の味わいで、多くの人の心を掴む『伊良(いよし)コーラ』。そのスペシャリテともいえる『魔法のシロップ』は、強炭酸で割り、レモンスライス、ブラックペッパーで仕上げていただきます。

この味を生み出したのは、自らの名にも「コーラ」と掲げる代表のコーラ小林さんです。

コーラ小林さん。こちらは移動販売車で一人売り歩いていた頃。

「日本のクラフトコーラのおいしさを、僕たちから世界中に伝えたいんです。なぜなら、クラフトコーラ ≒ 日本の生んだ文化だと思うから」。この言葉には、小林さんがクラフトコーラをつくるに至った背景やルーツが影響しています。

小林さんは、子どもの頃から偏頭痛持ち。「時には、なぜ生きているのだろうと思うくらい辛かった」というひどい症状だったそうです。それにはカフェインの含まれるコーラがよいと聞き、たびたび飲むように。さらに好奇心旺盛な性格や旅好きも手伝って、世界中を巡りながら各地でクラフトコーラを飲み歩くようになったのだとか。

そんなある日、100年以上も前に、コーラの生みの親であるジョン・ペンバートン博士が開発したレシピをインターネットで見つけます。当時、会社員だった小林さんは、仕事終わりや週末に、複数のスパイス類などを煮込み始めました。

「つくってみようと思ったのは、コーラがワクワクする飲み物だからです。たとえばジンジャーエールなら、味の柱となるのはジンジャーですよね。答えがパッと見えます。でもコーラは、正体が一見よく分かりません。レシピを見ると、複数の材料が合わさり、一つの味わいになっているのですが。正体がわからないのに、長年、世界中で愛されているっておもしろいと思いました」

伊良コーラには、多くのこだわりがあります。アフリカで採れる、カフェイン含有量がカカオやコーヒーより多いとされるコラの実を使う。シロップは、人の手で、寝かせる期間も含めて1週間ほどかけてじっくりつくる。店舗では、人によって提供する一杯にブレが出ないよう、機械でシロップを注いだり攪拌したりする。提供するストローの長さや素材、シロップの瓶に貼るラベルにも1mm単位で気を配るなど。しかし、中でも大切なのは、やはり製法だといいます。/p>

小林さんの祖父は、現在本店を構える下落合で、和漢方を手掛ける職人だった。

「味の決め手は、材料を“調合”し、味を“調和”させる製法です。でも、つくり始めた当時はそれがわからず、2年くらい試行錯誤しました。納得のいく味わいになったのは、和漢方職人であった祖父からもらった“調合”というヒントのおかげです。

僕は、物心ついた頃から、体調が悪くなると祖父が調合した漢方を飲んで育ちました。だから調合は、身近な手法だったと思います。古いレシピを参考につくり続けても、なかなか納得がいかなかったけれど、祖父の残したメモを見て、これだ! と。ヒントを元につくってみたら、ひと皮むけたおいしさになりました」

また、一気に煮込むのではなく、火を入れるという手法を採用。最も大変な作業だそうですが、これにより、味わいに“調和”が生まれ、さらに味がよくなるのだとか。

様々な点と点がつながり、出来上がった伊良コーラ。ちなみに、コーラを開発したジョン・ペンバートン博士は、アトランタで漢方を学んだ薬剤師であり、コーラ自体が爽やかで元気を与えてくれる飲み物として誕生したことも、小林さんは後日知ったそうです。

「ルーツに漢方があるという意味でも、コーラって実はオリエンタルな飲み物で、日本人に合っていると思います。だからこそ、僕たちから、世界中においしさを伝えたいんですよね」

たのしんでもらえれば、それでいい

2018年7月に、小林さん一人で移動販売車を運転し、一杯ずつ売るところからスタートした伊良コーラ。現在では、東京・下落合をホームに、2021年4月には渋谷へも出店。オンラインストアや各地のショップ、飲食店などでもシロップをたのしむことができ、着実にファンを増やしています。また、それに伴い、志を共にするクラフトコーラ職人や店舗スタッフなど、仲間も増えました。

「“クラフト”には絶対こだわりますが、僕は、やるからには広く知っていただきたいとも思っていて。だから、最終的な味のジャッジは必ず僕がしますが、伊良コーラのつくり手を、もっと増やしたいと考えています。提供できる数はもちろん、商品のラインナップやメニューも、協力して豊かにしていきたいですね」

店舗では、パウチ型の容器で飲むことができる

こうしてチームで目指すのは、2024年のN.Y.出店。

「もう3年後に迫っているので、命懸けで、たのしみながら取り組んでいます。大変だけれど今のように思えるのは、僕が一所懸命になっている伊良コーラを、多くの方が『おいしい』とよろこんでくれるからです。

今でこそ、日々充実していますが、僕は、どちらかといえば鬱々としていた時期が長くって。小学生の頃から好きなものではメインストリームになれず、その後も、旅や読書、映画、音楽など、好きな物事から大量にインプットはするものの、上手にアウトプットする術も場も持っていなかったんです。どう、このエネルギーを放出すればいいのだろう? と思い悩んでいましたね。

でもあるとき、生物学をかじったり哲学書を読む中で、人間はシンプルに自分自身がたのしむことが人生の目的なんじゃないか。自分がたのしいベクトルと社会の役に立つベクトルが一緒になれば、すごくいいな、と思いました。それが、まさに今。僕は、クラフトコーラというアウトプットを見つけられたんです」

その名をさらに広めるべく、現在はあたらしい味わいの開発と経営に邁進中。

だからもう、それぞれの感覚でたのしんでもらえたらいい、と続ける小林さん。「僕の考えるおいしさの要は、感動や驚きです。そもそも『おいしい』という感覚は、言語化できないものだとも思うから、素直にたのしんでいただけたら」

ゆくゆくは、老舗和菓子屋のように、300年続くメーカーになれたら、とも。自身が祖父から影響を受けたように。将来、受け継ぐ子どもや孫が、小林さんのエッセンスは大切にしながらも、それぞれの価値観で伊良コーラのおいしさを広げていってくれたらーー。さらなる物語は、ここから紡がれていきます。


コーラ小林|COLA KOBAYASHI

コーラ小林|COLA KOBAYASHI
1989年、東京・下落合生まれ。和漢方職人の伊良良太郎を祖父にもつ。北海道大学農学部、東京大学院生命科学研究科卒業。大手企業に勤務しながらコーラを探究し始め、2018年7月にファーマーズマーケットでの移動販売を開始。スパイス類と柑橘類を調和させたその味わいは、一度飲むとクセになる。

『伊良(いよし)コーラ』を味わう、贈る


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