私たちにできること

いつの日かたわわに実る、作物の種を蒔くように。先人からの知恵や技をリスペクトしながら、確かなバトンを未来へ渡していけるように。国や大小を問わず、さまざまな食のつくり手と手をとりあいながら、より豊かな食のたのしみをつくりあげていく。
DEAN & DELUCAが一歩一歩、取り組んでいく未来へのものづくり、その幕あけとしてお届けするのが、「NEW CLASSIC BREAD」です。
ヨーロッパにルーツを持つブレッドですが、日本は異なる文脈を持つ、ユニークな進化を遂げてきました。主食ではなく間食として、またひとつで完結する、手軽なフィンガーフードとして。日本ならではの“パンカルチャー”が育まれています。
一方で、ガストロノミー(美食)のカルチャーも、胸ときめかせるスピードで進化しています。当たり前に国境を超え、素材の産地にこよなく熱い眼差しを向けるシェフたち。その個がつながり、広がり、食のかたちと意識が変わろうとしています。
そんななか、DEAN & DELUCAとして届けたい、新しいブレッドとはなんだろう。模索していた頃、あるひとりの女性と出会いました。
Inspiration
サンフランシスコのカルチャーと思考を糧に。
彼女の名はJen。世界のブレッドのシーンに大きな影響をもたらした、サンフランシスコのベーカリー「Tartine Bakery」のディレクターを務めていたJenとは、知人の紹介で出会いました。
見上げれば広がるカリフォルニアの空のように、明るく澄み切った人柄、屈託のないウェルカムマインド、そしてブレッドに対するとめどなき情熱にほだされ、NEW CLASSIC BREADのプロジェクトを、チームとして一緒に取り組むことが実現しました。
深くかかわるほどに感じるのは、Jenの潔いほどのオープンさでした。Tartine Bakeryもまたヨーロッパの先人に学び、新たなブレッドをアメリカで花開かせ、根付かせたお店。そんな当時の経験、のみならず。選んできた素材や、あみ出したレシピ、そこから得られた思考を惜しみなくシェアしてくれました。また彼女がDEAN & DELUCAのために酵母を起こしてくれたのは、よろこびとおどろきを隠せませんでした。
とりわけJenが愛し、育てることに熱意を抱くのは小麦でした。
「あれは私がTartine Bakeryでパンを焼き始めて、5年ほど経った頃のことです。ある日、ボスのChadが近づいてきて、粉を見せたんです。それはグレインロバーツという製粉所による挽きたての小麦で『これをすぐにパンにしないといけないんだ』と言うんです。『ただ自分は忙しくてできないから、Jenがやってくれないか』そう頼まれ、私はさっそく焼いてみました。そしてカットして食べてみると、こんなにもおいしいブレッドがあるなんて!と、目が見開かれる思いがしたんです。それはたとえるなら、鉛筆画が油絵になったような、モノクロ映画がテクニカラーになったような!大きな違いでした。それからずっと私は、小麦が大好き。それを育てる農家の人も、製粉所の人も大好きになったんです」
カリフォルニアでは、独自に育ち続けるブレッドのカルチャーがあると言います。職人たちは、好きな地元の農家や製粉所を選び、焼き上げたものを届けるときには、どこのものを使っているのかを必ず伝える。それぞれが自分たちらしい“オウンブレッド”を焼いて、小さく広める。そうしたコミュニティがあまた生まれているのです。
「Chadがよく言っているのは、どんなにいいパンをつくっても、ひとつの小さなお店だけで届けられる量には限りがある。だから同じような技術と志を持つパン職人を育てていくことが大切で、やり続けていかなければ文化にはならない」まさにこれが彼女のオープンな姿勢の、本質的な理由でもあるのです。
ローカル、ナチュラル、クラフト、デイリー。浮かび上がった4つのヒント
そうしたJenとのかかわりを続けていくうちに、DEAN & DELUCAがこれから志していきたいブレッドのかたちが、徐々にあぶり出されてきました。
まずはローカル。つくり手の姿勢と息吹が感じられる、日本の小麦をできる限り使うこと。
次にナチュラル。ちゃんと生きている天然の酵母を、できる限り使ってつくること。
さらにクラフト。機械にたよりすぎず、ひとりひとりの職人の手によって粉をこね、かたちにし、焼き上げること。
そしてデイリー。それらの上質なブレッドが日常的に手に入る。いつでも、どのようなシーンでも食卓のまんなかにある、そんな環境をつくること。いずれ新しい文化として根付くまで。
Jenが私たちに残してくれたのは、「Happy cooking!」の精神。たのしんでつくる人たちが、おいしいものを生む。その明るいマインドに職人たちもまた大きな刺激を受け、ブレッドづくりに生かしていきます。
Commitment
日本のつくり手たち、みんなでつくるひとつの輪。
NEW CLASSIC BREADという旗印を掲げて。日本の食卓に心地いい風を通す、はじめの一歩を踏み出すために。私たちが取り組みはじめているのは、原材料となる小麦を、国産のものに変えていくことでした。
人を近くに感じる、温もりが感じられる食材を、できるだけ選びたい。そんな気運が高まるなか、こと小麦に関しては、まだまだ届いていない。そうした現状があります。
その理由として、茨城県にある小麦畑に訪れた際、農家の方が私たちに教えてくれたことを思い出しました。「小麦はお米と違って、そのままでは食べることができないですから」。農家さんにとっては、製粉所があり、ベーカリーがあって、はじめてお客さまに届けられる。自分たちだけでは、完結できないことがわかっている。だからこそ、間のかかわってくれてる人に感謝をし、こよなく心通わせ、一緒に汗をかける仲間を大切にしている、というのです。
それは食卓と似ているのかもしれない、と思いました。一品で完結させるより、さまざまなものと組み合わせることで、おいしさがより増幅する。心の近い人と同じテーブルを囲むからこそ、つくるたのしみ、食するよろこび、そして感謝の気持ちがより広がっていく。
素材を愛おしく見つめ、生かし、料理そのものの味わいが豊かになるなか、ブレッドもまた同じように進化させていきたい。料理が変われば、ブレッドも変わる。そうすればきっと、食卓のかたちも変わっていく。NEW CLASSIC BREADを通じて、より豊かな未来へのバトンをつないでいきます。