
HOLIDAY STORY 02
ブルックリンから蘇る
アメリカのアップルサイダー文化
アップルサイダーをご存知でしょうか? 世界各地で長い歴史を持ち、地域によって「シードル」や「サガルド」などとも呼ばれる、リンゴを発酵させて作るお酒です。かつてアメリカで「ビールよりポピュラーだった」と言われるこの飲み物が、再びニューヨークで注目を集めはじめています。
アップルサイダーという食文化の復活に情熱を燃やす「ブルックリン・サイダー・ハウス」のピーター・イーさんを訪ね、その想いを伺いました。
実際にご購入いただける商品があります 材料はリンゴだけ、
白ワインのように作るお酒
マンハッタンから北へ車で2時間ほど。ハドソン川の両岸に広がる「アップステート」と呼ばれるこのエリアは、若いファーマーやアーティストたちが移り住み、新しいコミュニティが生まれつつある地域。ピーターさんのリンゴ農園もここにあります。

「よく来たね。さっそくサイダーを飲むかい?」と、笑顔で出迎えてくれたピーターさん。約5年前にこの農園を手に入れ、リンゴの生産からアップルサイダー作りをスタートしました。昨年、ブルックリンに醸造所とレストランをオープンさせ、アップルサイダーに情熱を傾けています。
「僕たちのアップルサイダーは白ワインと同じ製法でリンゴを発酵させて作る。ハードサイダーとも呼ぶね。アルコール分は7%前後で、材料はリンゴだけ。砂糖も保存料も炭酸も一切加えない。こんなやり方でアップルサイダーを作っているのはニューヨークで僕たちくらいだと思うよ。さあ、チアーズ!」


冷えたアップルサイダーをワイングラスで。みずみずしい酸味がほのかな発砲とともに喉を心地よく刺激し、野性味豊かなリンゴの風味に満たされます。白ワインのようで、ビールのようで、シャンパンのようでもあり……。生まれて初めての味わいに驚いていると、ピーターさんから意外な言葉が。
「正直に言うと、僕は最初、アップルサイダーを『美味しくない飲み物だ』って思っていたんだ」
たった1秒、
バスクで飲んだ
アップルサイダーが人生を変えた
「アップルサイダーを美味しいと思っていなかった」というピーターさんが、サイダー作りを始めるまでに、どんなストーリーがあったのでしょうか? そのきっかけを伺います。
「僕は25年間マンハッタンでワインセラーの仕事をしていたんだ。その頃、アメリカやヨーロッパで作られたアップルサイダーを何度も飲んだことがあったよ。でも一度も美味しいとは思わなかった。当時の僕は、サイダーよりワインの方が素晴らしい飲み物だと思っていた」

アメリカに出回る一般的なアップルサイダーは砂糖や添加物入りの甘いものが多く、当時のピーターさんにとって「アップルサイダーは安っぽくて庶民的な飲み物」という印象だったそうです。そのイメージを覆す転機が、スペインのバスク州で訪れます。
「5年ほど前、ワインの買い付けでスペインのバスク州を訪れたとき、友人に連れられてサイダーハウスに行ったんだ。内心『サイダーなんかより早くワインを飲みに行きたいのに』と思いながらね。ところが、そこでアップルサイダーを1口飲んだ瞬間、電撃が走った。たった1秒のうちに、アップルサイダーの本当の魅力が理解できたんだ。今まで本当に素晴らしいサイダーを飲んでいなかったこと。最初は受け入れ難いものの中にも、本当に素晴らしい飲み物や食べ物があるということに気がついた。このアップルサイダーという飲み物の素晴らしさを、ニューヨークに戻って伝えないといけないと思ったよ」

アップルサイダーはヨーロッパ各地で伝統的に作られてきた飲み物。イギリスの「サイダー」やフランスの「シードル」、そしてバスクの「サガルド」など地域ごとに長い歴史を持ちます。こうしたヨーロッパのサイダー文化が植民地時代のアメリカに伝わり、独自の発展を遂げていったと言われます。
「アップルサイダーの魅力を知るには、何度か試す必要がある」と、ピーターさんは言います。ビールやビターチョコレートやワインの美味しさがわかるまでに時間がかかるのと同じだと。
「一度アップルサイダーの素晴らしさがわかると、『これ以上に素晴らしい飲み物はない!』って思うはず。僕も、僕の家族もそうだったよ」
失われたアップルサイダー文化を
復活させたい
ニューヨークに戻り、いざアップルサイダーを作ろうとしたピーターさんですが、大きな問題が立ちはだかります。
「いくら探し回ってもサイダーに適したリンゴが見つらなかったんだ。本当のアップルサイダーが今のアメリカではほとんど作られていない。サイダー用のリンゴもほとんど手に入らない。それで自分でリンゴから育てることを決めたんだ」

どうしてアップルサイダーは作られなくなったのでしょうか? その背景にはアメリカのアップルサイダーが持つ不運な歴史があります。
「100年前のアメリカでは、アップルサイダーはビールや水より一般的な飲み物だったんだ。ところが禁酒法(1920〜1933年)の時代、アルコールが禁止されてアップルサイダーも作れなくなった。困ったのはリンゴ農家で、サイダー用のリンゴは酸っぱくて食用に向かないから売れない。彼らは仕方なく食用の甘いリンゴや他のフルーツに植え替えたんだ。それ以来、禁酒法が終わった今でもアメリカのアップルサイダー文化は復活していないんだよ」

「失われたアップルサイダーという食文化を再びアメリカに広めることが僕の使命だと思っている」と話すピーターさん。それに応えるように、アップルサイダーは食のアルティザンムーブメントの最新の動きとして、ニューヨーカーの注目を集めはじめているようです。後日訪れたマンハッタンのクラフトチーズストア『サクセルビー・チーズモンガーズ』のアン・サクセルビーさんはこう話してくれました。
「ニューヨークのクラフトフードやフードアルティザンのシーンで最初に注目されたのがおそらくクラフトビールで、その次がチーズ。どちらも今は定着しつつあるわ。そして、今まさにみんなが魅力に気づき始めているのが、アップルサイダーなの」
誰でも気軽に
アップルサイダーを楽しめる場所を
ブルックリンに移動し、ピーターさんたちの醸造所兼レストランを訪れます。ギャラリーやライブハウスが集まるヒップなエリア、ブッシュウィック。「バスクのサイダーハウスにイスピレーションを受けた」という、サイダーを楽しむための場所がここです。



「この場所ができたのは去年。ここで発酵と熟成をしてサイダーを作っているんだ。レストランとバーもあって、新鮮なサイダーと料理を気軽に楽しんでもらう場所だね。僕たちのサイダー以外にも、いろいろなサイダーを扱っているよ。ここでは樽からダイレクトに飲める。ほら、サイダーキャッチングだ、グラスを持って」


「上質なワインがすべての上質な料理と合うとは限らないよね。でも、僕の経験上、アップルサイダーは90%以上の料理とマッチングが楽しめる。フライやトンカツもいいし、キムチなんて最高! 砂糖を加えてないから二日酔いにもなりづらいし、毎日飲んでも安心だよ」

フランスのノルマンディー、スペインのバスク、オーストリア、イギリスやアイルランドなど、アップルサイダーは各地で作られ、地域ごとに独自個性を持っているそうです。

「サイダーバーには24のサイダータップがあって、僕たちのサイダーに加えて、僕が選んだ各地のアップルサイダーをドラフトで飲めるんだ。いつか世界中のサイダーをここで飲めるようにしたいね」
アップルサイダー文化の中心地として
サイダーバーではドラフトが7ドル〜。3種類のサイダー飲み比べ9ドル。持ち帰りのボトルは1本10ドルからと、気軽にサイダーを楽しめます。

「安すぎるって何度も言われたよ。でも、誰でも気軽に本当に美味しいサイダーを楽しんで欲しいんだ。お金のためにしているわけじゃない。ブッシュウィックは自然派志向の人やローカルのアーティストも多いし、この場所をサイダー文化の中心地にしたいんだ。ニューヨークの人たちにサイダーという食文化の魅力を、もう一度知ってほしいから」

「今、自然農のリンゴ作りに挑戦しているんだ。無謀だと言われるけど、不可能じゃない。アップルサイダーにはまだまだ可能性があるはずだ。僕にとってこれはビジネスじゃない、パッションなんだよ」
ぜひピーターさんのアップルサイダーを体験しに、ブルックリンへ訪れてみてください。人生を変える一口に、出会えるかもしれません。
Brooklyn Cider House
Brooklyn Cider House at Twin Star Orchards
BROOKLYN CIDER HOUSE
アップルサイダー
一部の店舗ではピーターさんのアップルサイダーをご購入いただけます。
軽やかな飲み口はどんな料理とも合わせやすく、カジュアルに楽しめます。
- 販売開始 : 12月上旬
- 販売店舗 : 六本木 / 品川 / 名古屋 / オンラインストア
- キンダ・ドライ by Brooklyn Cider House ¥2,592/750ml
- ロウ by Brooklyn Cider House ¥2,592/750ml
