松浦弥太郎さんのおいしい本棚

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幅:お忙しいなか、今日はありがとうございます。さて、まずは松浦さんの一日についてから話をお聞きしたいと思います。
「午前中は自分の仕事のため」といったことを本に書かれてましたが、毎日の規律みたいなものはあるのですか?

松浦:だいたい7時半に会社に行って、午前中に自分の仕事を終えて、午後は打ち合わせとかで人と会ってという毎日ですよね。

幅:ご飯は、朝昼晩ちゃんと食べるのですか?

松浦:ええ、時間を決めて食べています。昼は外食ですが12時に。夜は7時に家族で夕飯を食べると決めています。ということは、会社を5時半には出ないと間に合わないでしょ?
一日の生活のなかで、僕は「7時に家族と夕飯を一緒にとる」ということが、自分にとっての全ての軸になってるんです。だから、仕事の開始時間もそこからの逆算。「そのためにどう仕事をするのか?」とか「そのためにどう自分の時間を使うのか?」など、全部そこに集約しています。
何があっても、夜の7時には全員が家の食卓に着く。それは僕だけじゃなくて、みんなの努力です。もちろん妻もそうだし、娘もそうだし。でもそこを無くしてしまうと、「我が家の大切にしていることって、なに?」となってしまう。もちろん色々あるんだろうけども、目に見えて形になるようなものがなくなるんですよね。

幅:抽象的なものではなくて、実際的な行いでそれを確かめるということですか。

松浦:そうじゃないと、「わかってるよね」みたいな感じで終わっちゃう。やっぱり、「努力をする」ということを毎日続けることは大事です。娘はもう高校2年生だから、結構難しい。ひょっとしたら、7時に食卓に着くっていうのは彼女が一番難しいかもしれない。

幅:たしかに、部活動やら友達の付き合いやら、ありますよね。
だけど、ずっと今まで毎日食卓を囲むことによって、言葉などでは定義できない、血の通った何かを共有しているのですね。

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松浦:3人家族なんで案外ひっそりとしたものなんですけどね。でも、自然と7時にみんなが席に着き、妻は妻でそこで料理を食べれるように準備を進めておく。全てこのために各自が時間を使ってるんだ、というのを、我が家がみんなで声を揃えて言えることが大切なんです。一方、それ以外はもう自由。

幅:共働きだから我が家は無理! とか、言い訳はたくさんできるわけです。子供は子供で、やれプールやら何かの稽古に意外と忙しい。そういった時に、ちゃんと7時に座っていることの喜びというか、「確からしさ」みたいなものって、どういう風に娘さんに伝わっていったと思いますか?

松浦:娘が生まれた時からずっとそういうことにしてるんでね。「せーの」で始めたというよりも、何か自然発生的に、自分たちでひとつの頑張りどころとして始めた気がしますね。
あとは、自分の育った環境というのもあると思います。幸いにも僕の家は毎日7時くらいに家族全員が揃って食事をしてたんですよ。父も含めて。今思うと、中々珍しかったのかも知れない。だいたい「お父さんはあとで」というところが多いじゃないですか。僕はそうやって育ったんで、自分にとってそれが普通のことだったんですよね。

幅:でも、家族での頑張りどころということで言えば、「朝、保育園まで送っていくのが頑張りどころだ」と思っているお父さんもいれば、「とにかく毎日、お弁当を作るのが頑張りどころだ」と思っているお母さんもいるかも知れない。その頑張りどころが、夕飯の場所、つまり食卓になったというのは、大きな意味があったのでしょうか?

松浦:大きいと思います。やはり、みんな忙しい。うちの妻は専業主婦ですけど、専業主婦も、やっぱり忙しい。娘は学校で忙しくて、僕も忙しいんで、そういう食の時間でも作らない限り、みんなで顔を合わす、という時間がないんですよね。そこを無くしてしまうと、会話もなくなるかもしれません。
僕は、毎日4時半から5時ぐらいに起きて、マラソンをして、朝食を摂って、7時半に会社に行く、という生活をしているので、だいたい夜の10時には寝ないと健康管理ができない。それは僕の生活スタイル。妻は妻で生活スタイルがあり、娘も娘で学校中心に回ってるから、僕よりも夜更かししているし。だからそんな中で、ちょっとだけみんなで顔を合わせ、別に言葉を交わすわけでもないんだけれど、お互いがお互いを関心に持つような時間、結び目みたいなものはどうしても必要ですよね。
その蓄積というか、毎日のみんなの努力で、そんな食卓が成立していて、みんなそれに対して大変だけど心地よさや安心感を覚えている。僕にとってはそれが生きている中での一番の幸せなので、まったく辛いと思ってないんですよ。好きでやってるから、充実感も感じています。

幅:続いて、選んでいただいた本の話をお聞きしましょう。
今回10冊の本を選んでいただいたのですが、まずそのラインナップに驚きました。全て、実用的なレシピだったので。実際にその本を手に取って、シンクの横辺りにページをがばっと開き、レシピを見ながら料理を作る、ということに役立ちそうな本ばかりですよね。まずは、こういった種類の本を選んでいただいた理由を教えて下さい。

松浦:今回の企画は、これらの本がDEAN & DELUCA(以下DD)のwebサイトやお店でも販売されるというお話ですよね? 僕は本屋だから、本を選ぶということになるとやっぱり売り上げに貢献したいんですよ。売り上げに貢献するというのは、お金勘定のことだけではなくて、結果としてお客さんに喜んでもらいたい、新しく何かを発見してもらいたい、ということです。もう少しやわらかく言うと、DDのwebサイトを見て関心を持ってくれた人や、お店に来てこの本の並びを見た人に、いかに喜んでもらえるか? が重要。そして、家に持って帰ってもらって、いかに役立ててもらうか? ということですよね。
さらに言うと、この10冊は、実はひとりの人に全部買ってもらいたいんですよ。

幅:なんと10冊全部ですか!?

松浦:そうなんです。全部買って頂き、「松浦弥太郎さんに騙された!」と後悔したら、いつでも僕が引き取る。そんな気持ちで選んだ本です。でも絶対後悔しないはずですよ。「毎日これがなきゃダメ」というぐらい役に立つ本って、ありそうで少ないんです。だけれども、今回僕が選んだ10冊というのは、この10冊あれば必ず10年ぐらいは楽しめるという本。だから、この中のどれかを選んでもらいたい、というのではないんです。これをまとめて買ってもらう。まとめて買うことで、「松浦弥太郎が言わんとしていることは何なんだろう」というのを、存分に味わって欲しい。お叱りは全部僕が引き受けるので、という気持ちです。僕が本を選ぶっていうのは、そういうことなんですよ。あなたの一生に、暮らしに役立つと言うと、とても大げさなんだけれども、実際に僕が1ページ1ページ自分で役立てた本。実体験を伴って「これは間違いない」と感じた本です。人には色々な嗜好があるけれども、どんな人にも自信を持ってオススメができますね。「お金を出しても惜しくありませんよ。僕を信じてもいいですよ」という本の選び方なんです。

幅:たしかに本って、伝え手が自分自身も含めて差し出さないと届かないところがありますよね。本自体は声を持つものではないので。そういった時に、伝えられた側も責任の所在がしっかりしていると安心するはずですし、勧めた人も含めて受け入れてもらう、というのはすごく分かる気がします。

松浦:この「おいしい本棚」のシリーズで、前に本を選んだお三方(平松洋子さん、伊藤まさこさん、高橋みどりさん)がいますね。もちろん、皆さん素敵な本を選んでいて、そこで重なっても仕方がない。だから、僕が選んだのは実用書なんですよね。実用書としてのクオリティを、自分自身が日々の生活の中で確かめて、今回の10冊を選びました。だから、この10冊を全て買うべきなんだと僕は思う。これを見てくれた人は。

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幅:紹介していただいた本を僕もいくつか読んでみたのですが、本当に納得して使える「道具」としての本という気がしました。例えば、ウー・ウェンさんの『大好きな炒めもの』なんて、すぐ熱中しちゃいましたもの。
炒めものを中国風に作ろうと思うと、「火力もなければいけないし、油の量も気になる。それに、あんなにたくさん作れないから出来ない!」て思っていたのだけれど、ウー・ウェンさんの本を読むと、「このもやしの炒めものは今度絶対に作ってみたい!」って思えるんですよね。あと、この「豆腐のトロトロ炒め」とか。今までは大量の火力でババッと調理するのが中華だから家では不向きだと思っていたけれど、実は「もやしの芽と豆の部分を取る丁寧さに20分かければ、できます」と言われて、「そうか、さぼっていてすみません…」と納得させられました。「中華料理も届かないものではないんだ」という感じで。

松浦:『暮しの手帖』という雑誌はライフスタイルを提案するものではなくて、生活の実用書なんです。それこそ、道具に近いようなもの。その仕事のせいもあって、あらゆる料理本を自分でも試すし、勉強のためにも読みます。いわゆる普通の生活をしている人たちが、何を悩んでいるのかや、何をどうしてもらいたいのかなど、彼女ら自身がまだはっきりと気がついていないような問題点にどうやって先に気づいてあげられるのか、というところが僕の仕事には必要なんです。

幅:先に気づいて、それをすくい上げるということですか?

松浦:そうです。そういう仕事なので、相当な数の料理本は見ているはずなんです。しかも我が家は、妻が料理好きというのもあり、丁寧に作ってる方だと思うんです。なので料理本は本当にたくさんあるんですよ。しょっちゅう買っていて、いろいろ作ってみる。僕も料理は嫌いではないから、休日とか時間のある時は自分で試したり、読んでみたり。

幅:やっぱり休日などに自身でも試されるのですね?

松浦:そうですね。休日のお昼とか早めの夕方とかに。そうした中で、どんどん料理本のセレクションが行われていくわけですよ。たくさんはあるけれども、余分なものも整理されてゆき、「松浦弥太郎の家に残った料理本は何なんだろうか?」というところを検証してみたら、この10冊。

幅:たしかに、今回の選書は驚くほど早かったんですよ。あっという間に10冊(笑)。まさに目の前にあるものがそのまま真空パックで送られて来た感がありましたね。

松浦:物を選ぶとかセレクトっていうのは、考えれば考えるほど遠回りになるんですよ。よく見られたくてかっこつけたりして、違う意味がそこにどんどんくっついていくから、やっぱり即答というのが基本なんですよ。ライブ感というか、一番自分が信じている胸を張れるような物を選ぶ。「こんな物を選んだら松浦弥太郎として恥ずかしいかな」とか、「笑われるからこっちの方がかっこいいな」みたいな余計なことを考えると、結局それはセレクトではなくなってしまう。単なるコーディネートというか。

幅:僕はそんなことしか考えてませんよ(笑)。ともあれ、松浦さんは実生活の中から出た経験と、そこから導かれた情報をそのまま差し出す、という感じですね。

松浦:一番自信を持って差し出せるのは、自分自身が感動したものとか、自らが確かめたものですよね。それをよしとしてくれる人もいれば、違うと思う人もいるだろうけれども、それは結果だから。両方あって僕はいいと思う。両方なきゃ、おかしいじゃない?

幅:百人中百人が誉め称える本なんて、僕はちょっと恐ろしいとすら思っちゃいますね。

松浦:コミュニケーションというのはそのためにあるわけだしね。だから、結構自信があるというよりも、真実というか…。

幅:松浦さんなりの真実、ということですよね。

松浦:そうそう。

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松浦弥太郎

松浦弥太郎

暮しの手帖編集長 / エッセイスト
「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学び、についての執筆、雑誌連載、ラジオ出演、講演会を行う。著書多数。中目黒、南青山のセレクトブックストア「COW BOOKS」代表。NHKラジオ第一にて、毎週(木)「かれんスタイル」レギュラー。
http://www.kurashi-no-techo.co.jp/
http://www.cowbooks.jp
http://www.nhk.or.jp/r1-night/karen/

  • もし僕がいま25歳なら、
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    著者:松浦弥太郎
    出版社:講談社

    未来の自分に言い聞かせる。

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    著者:松浦弥太郎
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    著者:松浦弥太郎
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    お金を好きにはではなく、お金に好かれること。

  • 考え方のコツ
     

    著者:松浦弥太郎
    出版社:朝日新聞出版

    考えるのは、闇雲ではいけない。

  • 暮しの手帖日記
     

    著者:松浦弥太郎
    出版社:暮しの手帖社

    日々思うことを忘れない。

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    大切なものには思いがぎっしり詰まっている。

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    著者:松浦弥太郎
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    これがブレてはいけない。

  • さよならは小さい声で
    松浦弥太郎エッセイ集

    著者:松浦弥太郎
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    人から学ぶこと、教わること、救われること。

  • しあわせを生む小さな種
    今日のベリーグッド

    著者:松浦弥太郎
    出版社:PHP研究所

    与えられるのではなく、育てる“幸せ”。

  • 100の基本 松浦弥太郎の
    ベーシックノート

    著者:松浦弥太郎
    出版社:マガジンハウス

    自分だけの基準を探す100のこと。

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